研究課題/領域番号 |
14J02202
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
北村 拓也 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | アルデヒド脱水素酵素 / スフィンゴ脂質 / ノックアウトマウス |
研究実績の概要 |
魚鱗癬原因遺伝子には機能未知のものや病態との関連が不明なものが多い。
ALDH3A2は魚鱗癬,精神遅滞,痙性麻痺を主症状とするシェーグレン・ラルソン症候群の原因遺伝子である。この遺伝子は脂肪族アルデヒド脱水素酵素をコードしている。ALDH3A2活性の低下によって蓄積した長鎖アルデヒドの毒性が発症に関係すると推測されるが,詳細なメカニズムは不明である。そこで,本研究では病態発症のメカニズムの解明を目指している。
これまでの解析でAldh3a2ノックアウトマウスはヒトでみられるような病的な表現型を示さず, 各組織において長鎖アルデヒドに対する活性の残存が確認されていた。そこで,26年度はALDH3A2以外のアルデヒド脱水素酵素が残存活性に寄与する可能性について,各酵素を精製し,in vitroでの活性を調べることで評価した。その結果,ALDH3A2と相同性が高いマウスALDH3B1,ALDH3B2,ALDH3B3にも長鎖アルデヒドに対する活性があることを明らかにした。特にALDH3B2は皮膚での発現量がALDH3A2の10倍程度高いことをreal-time PCRで確認した。このとから, Aldh3a2 ノックアウトマウスにおいて魚鱗癬様症状がみられないのは, ALDH3B2の高発現及び活性の影響であることが示唆された。さらに,ALDH3B2,ALDH3B3についてはプレニル化修飾をうけており,それぞれ脂肪滴,細胞膜に局在することを明らかにした。ALDH3A2は小胞体に局在するため,ALDH3B2は完全にはALDH3A2の機能を相補できないと考えられる。実際,ALDH3A2ノックアウトマウスでは脂質代謝の異常が確認されたため,27年度は生化学トレーサー実験で代謝異常を詳細に解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,ALDH3ファミリーの長鎖アルデヒドに対する活性測定及び組織発現分布を明らかにした。特にマウスALDH3B2は長鎖アルデヒドに対して活性を有しており,皮膚で高い発現を示した。これらの結果はALDH3A2の機能をALDH3B2が相補する可能性があり,Aldh3a2ノックアウトマウスにおいてヒトでみられるような魚鱗癬様症状がない要因たりうることが示唆された。また,これまで知見がなかったALDH3B2,ALDH3B3についても脂質修飾および細胞内局在を明らかにし,結果を学会および学術誌で発表している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では,ケラチノサイトを用いて魚鱗癬原因遺伝子の過剰発現またはノックダウンを試みる予定であったが,ヒトと異なりマウスのケラチノサイトは継代ができず,また,遺伝子導入後に細胞が死滅しやすいため解析が難航すると予想される。そのため,まずはAldh3a2ノックアウトマウスのケラチノサイトを用いて魚鱗癬原因遺伝子などの発現に変動がないかをreal-time PCRで調べる。また,ALDH3A2がヒト表皮中の主要なセラミドであり,アトピー性皮膚炎等と関連の深いフィト型セラミドの分解過程に関与することを示唆するデータが得られたため,今後の解析ではアシルセラミドだけでなくフィト型セラミド代謝への影響についても解析を行う予定である。
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