研究実績の概要 |
DNA脱メチル化の異常と肝発癌の関連を明らかにすることを目的として、DNA脱メチル化に関わる遺伝子としてTET1・TET2・AIDに着目し、マウスを用いてその腫瘍発生への関わりを明らかとする研究を行っている。 シトシン脱アミノ化酵素であるAIDの過剰発現に伴う遺伝子異常・DNAメチル化異常を解析するため、AIDトランスジェニックマウスに低濃度チオアセトアミド投与による薬剤性の慢性肝炎を惹起させることにより、AIDの異常による肝発癌マウスモデルを作成した。このマウスを用いてまず遺伝子変異の蓄積状況を、次世代シーケンサーを用いて網羅的に解析したところ、AIDによる遺伝子変異の蓄積を確認した。特に、AIDが変異を導入している標的遺伝子の特徴について解析したところ、特に炎症に伴って転写が上昇した遺伝子への変異生成が促進していた。以上より、炎症による遺伝子の発現亢進がAIDによる変異導入の危険性を増加させ、その結果生じたゲノム異常の生成亢進が肝発癌に促進的に作用するという分子機構の存在が示唆された。以上の結果について論文をまとめ、国際雑誌へ掲載することができた(Carcinogenesis. 36(8), pp. 904-913, 2015.)。 さらにDNAメチル化状態の検討について、MBD-seqにより網羅的に解析したところ、AIDトランスジェニックマウスと野生型マウスの間で、DNAメチル化状態に差があると思われる遺伝子群を検出した。現在は、これらの遺伝子群のうちいくつかの遺伝子に着目し、AID・肝炎の有無により実際にDNAメチル化状態に変化が生じているのか、バイサルファイトシークエンスを行うことで検討しているところである。 また、TET1・TET2と肝発癌の関連についても現在、肝特異的にこれらの発現を欠損するマウスを作成し、肝発癌を来すかどうか検討しているところである。
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