研究実績の概要 |
現在中性子過剰核特有の物理として理論的にも実験的にも盛んに議論がなされているダイニュートロン(ダイプロトン)相関について研究を進めた。ダイニュートロン(ダイプロトン)相関とは自由空間では非束縛な二中性子(二陽子)が核物質の低密度領域中や不安定核の表面付近において強い空間的な相関を持つというものである。このダイニュートロン(ダイプロトン)相関に関しては、これまで既存の枠組みの適用限界からごく一部の原子核でしか研究がなされておらず、有限原子核中における普遍的な性質や促進・減衰機構はいまだ全く明らかになっていない。 そこで本研究では様々な原子核に普遍的に適用できる模型である反対称化分子動力学(AMD)を用い様々な不安定核の系統的研究を進めている。そして、AMDを用いて記述した原子核系において、核表面付近の二核子の運動を詳細に議論するための解析方法を新たに構築し、それを用いて解析を進めている。今年度は軽い不安定核である6He, 10Be, 13Oをダイニュートロン(ダイプロトン)相関という観点で詳細に解析した。その解析から原子核の変形構造が核表面付近におけるダイニュートロン(ダイプロトン)相関形成に有意な影響を及ぼすことを初めて示唆し、現在論文にまとめている段階である。二核子間の空間的相関の普遍的性質の解明に向けた手法が確立しこれまでにダイニュートロン(ダイプロトン)相関という観点からは研究なされていない原子核の系統的研究が可能になったことにより、ダイニュートロン(ダイプロトン)相関の理解における更なる進展が次年度以降大いに期待される。
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今後の研究の推進方策 |
ダイニュートロン相関の系統的研究のための枠組みがほぼ完成したので、次の段階としてそれを様々な原子核に適用する中でダイニュートロン相関の一般的な形成・促進・減衰機構を明らかにし、原子核中でのその振る舞いの統一的な理解を果たしたい。 例えば、二つの中性子が芯に対して極めて弱束縛で、芯の周りに低密度で大きく広がった分布をする二中性子ハロー原子核(11Li, 22C, 17,19Bなど)において芯の周りでダイニュートロン相関がどのように発達するのかを明らかにする。その際には芯の構造がダイニュートロン相関にどのような寄与を及ぼすかなどの観点で、それらのハロー核中でのダイニュートロン相関の性質を比較し類似点・相違点を明らかにする。ハロー核以外の原子核におけるダイニュートロン相関の性質とも比較することにより、弱束縛性がどのようにダイニュートロン相関に影響するのかなども明らかにしたい。 また強いダイニュートロン相関を含んだ励起状態を、例えばBe, C, O同位体において議論する。ダイニュートロン相関を含む励起状態の研究は理論的にも実験的にもほとんど進んでおらず、その存在は未だ確認されていない。本研究の枠組みを用い、そのような励起状態中のダイニュートロン相関の振る舞いを研究するとともに、それらの励起状態に共通して見られる特徴などを明らかにし、実験的に測定するためにはどのような観測量が適当であるかを探る。
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