研究課題/領域番号 |
14J02232
|
研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
林 久美子 国際日本文化研究センター, 研究部, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
キーワード | 日仏文化交渉 / ジャポニスム |
研究実績の概要 |
今年度は、昨年度からの研究内容をまとめて博士論文を執筆し、2015年9月末にこれを提出した。博士論文は「世紀転換期における日仏文化交渉史(1890 - 1920年代)――フランス美術行政にみる日本美術観を中心に――」と題し、本研究課題の中核を成すものとなっている。本論文は、19世紀末に誕生した日仏の文化交渉とは如何なるものだったのか、そして、日仏文化交渉を土台とした、20世紀初頭のフランス美術行政における日本美術観とは如何なるものだったのかという二つの主題から構成されているが、とりわけ今年度はこのうちの後者、フランス美術行政を中心とする、フランスの公的組織において、日本美術がどのように認識されたのかを中心に検討し、博士論文としてまとめた。 まず、フランスでの日本美術観を探る上で、その土台として、日本側が初めて公的に示した日本美術像である、1900年パリ万博での古美術展示を取り上げた。これまで日本古美術展そのものを詳細に検討したものはなかったが、今回、新聞、雑誌などのメディア分析を行い、日本古美術展の実態とともに、フランスにおける受容について、初めて詳細に考察した。 次いで、20世紀初頭(ポストジャポニスム時代)における、フランスの公的組織での日本観を探るために、ルーヴル美術館とフランス極東学院の事例を取り上げた。19世紀末から開始されたルーヴル美術館の日本美術収蔵については、Archives des musees nationaux(国立美術館古文書館)の新出資料と、今回新発見の多数の新聞資料により、美術工芸部門極東美術室に位置付けられた日本美術の変遷を明らかにした。また、フランス極東学院に所属したクロード・メートルが、ジャポニスム的日本美術観から脱却して、さらには美術に留まらない幅広い分野の日本研究を目指した様子を書簡などの新資料から検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度(平成27年度)の優先的な目標として、博士論文の提出を予定していたので、本研究課題の中核を成す博士論文「世紀転換期における日仏文化交渉史(1890 - 1920年代)――フランス美術行政にみる日本美術観を中心に――」を2015年9月末にできたことは、本研究がおおむね順調に進展した証左といえる。一方で、本来は日本各地における大規模な資料調査を予定していたが、博士論文執筆に多くの時間が取られたため、長期の資料調査を行うことは断念せざるを得なかった。 具体的には、ポストジャポニスム期(20世紀初頭)のフランスにおける日本美術観として、コレクターのみによる愛好から、一般大衆への展示、普及、そして学術研究へという視点の大きな転換が見られた一方で、美術館における具体的な展示作品そのものはジャポニスム時代に収集されたものが中心であったということを実証的に明らかにすることができた。 (1)ルーヴル美術館では、19世紀末、ガストン・ミジョンとレイモン・ケクランが日本美術を収蔵することに成功したが、これは一方で、フランスの装飾美術振興に資する形で、ジャポニスムの延長線上として、日本美術全体が「美術工芸」としてフランス美術行政に組み込まれたことも意味していた。 (2)フランス極東学院では、ジャポニスム的日本美術観から脱却したクロード・メートルが、美術に留まらない総合的な日本研究を目指していたが、極東学院内の研究の主軸はインドシナにあり、日本研究はあくまで「極東」の一部でしかなかった。 上記2点は、20世紀初頭におけるフランス芸術文化政策から見た日本観を主題とする本研究課題において、中心をなす具体例であり、今回この2点を明らかできたことにより、研究課題も順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
28年度は、これまであまり行うことのできなかった学会発表や論文投稿を中心に、これまでの研究成果を発表していくことを目指す。 まず、1900年パリ万博の日本古美術展評を発表することで、日本研究者としての第一歩を踏み出したクロード・メートルを取り上げる。彼はフランス極東学院(EFEO)に所属して日本にも長期滞在し、晩年には日本をテーマとするフランス初の雑誌『日本と極東』を刊行するなど、新たな日本学の形成を目指した。これまで本格的な研究のなかったメートルについて、6月の日本比較文学会全国大会で研究発表を行う。 7月以降は、博士論文からの研究テーマをさらに進展させ、ルーヴル美術館の日本美術コレクションの変遷を明らかにするとともに、同時期にパリに誕生したその他の美術館(ギメ美術館、エヌリ美術館、装飾芸術美術館)における日本美術コレクションについても資料調査を行い、研究成果を投稿論文や国内外の学会で発表することを予定している。 特にルーヴル美術館の日本美術コレクションの草創期については『ジャポニスム研究』に論文投稿を行う。また、ルーヴルへの日本美術寄贈運動を呼びかけ、フランスの美術行政にも携わっていたレイモン・ケクランについて、その幅広い活動や交友関係について調査を行い、その成果を10月のジャポニスム学会シンポジウムで発表することを目指したい。 10月からはEHESS(フランス社会科学高等研究院)に受入れを依頼し、フランスで長期調査、成果発表を行うことを企図している。12月にリヨンで行われるSFEJ(フランス日本学学会)のシンポジウムでは、「図画教育から見た日仏文化交渉」と題した発表を予定しており、EHESS内でもルーヴル美術館における日本美術コレクションの変遷について、口頭発表を行うことを目指している。
|