前年度に引き続き、2016年度も北部ビルマに分布するジンポー語方言を対象としたフィールドワークとそれに基づく研究を進めた。2017年1月から2月にかけてビルマのカチン州ミッチーナー市に渡航し、急速に失われつつあるカチンの呪術師の言語に関する調査を行った。同調査により、この社会方言は語彙・文法ともに他の地域方言と大きく異なること、並列複合語が多用されること、シャン語などの借用語を多く含むことなどが判明した。また、同調査と並行して現地調査では失われつつあるカチンの民話の録音を行い、計186本の民話資料の採集を行った。同資料は過去の調査により蓄積した民話資料と合わせて2017年度中にCoEDLが運営する言語アーカイブPARADISECに登録し、データのアーカイビングを行う計画である。
研究成果として、ジンポー語に関する4本の論考を公刊するとともに、4つの国際会議・研究会を含む計12回の研究発表を行った。具体的には、ジンポー語のシャン語借用語を扱った論文、ジンポー語のビルマ語借用語音韻論を扱った論文、ジンポー語文法の概要に関する本の章、ジンポー語表記法の歴史と発展を扱った記事を公刊した。また、主な学会発表として、ジンポー語の無気音化を扱った学会発表、ジンポー語の人称階層に基づく動詞の一致を扱った学会発表、ジンポー語の所有者が引き金となる動詞の一致を扱った国際会議における発表、ジンポー語の文法関係を扱った国際会議における発表、ジンポー語を含む東南アジア諸語の日食と月食に関する語彙の地理分布を扱った国際会議における発表などがある。
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