研究実績の概要 |
熱帯産薬用植物のスクリーニングを行い, Helminthostachys zeylanica根50%エタノール抽出物にメラニン生産制御効果を確認した。その抽出物からUgonin J, K, Lと2つの新規quercetin配糖体を単離した。これらを試料としたマウスB16メラノーマ細胞試験により,ugonin J, Kが細胞外メラニン生成阻害活性を示し,quercetin配糖体は細胞内メラニン生成促進活性を示した。これらの結果からフラボノイド類にメラニン生成を制御する作用を確認したため,構造活性相関の調査と活性機構の解明を行うこととした。 これまでにugonin J, KのB環とC環の構造が活性に与える影響について調べるために類似フラボノイドの活性試験を行った。その結果C環のフラボン骨格とB環のカテコール骨格の細胞外メラニン生成阻害活性への必要性が示された。さらに7位に結合する低極性置換基の活性への重要性を明らかにしていくため,luteorlinの7位にさまざまな置換基をもつ化合物を合成し,活性を測定した。その結果luteolin-7-O-propyletherが合成した7位置換luteorlin誘導体の中で最も活性が強く,その活性はugonin Kと同等であった。 一方quercetin配糖体がメラニン生成促進活性を示したことから構造活性相関の調査のため19種quercetin誘導体を合成し活性試験を行ったところ3-O-methylquercetin(化合物1)と3,4',7-O-trimethylquercetin(化合物2)が低細胞毒性で強力な細胞内外メラニン生成促進活性を示した。そこでこれらの活性機構の解明を試みた結果,化合物2はメラニン合成酵素の発現を促進し,一方化合物1は分解を阻害することでメラニン生成を促進することを示唆した。さらに化合物1と2はメラノソーム輸送に関連するEPI64の発現を阻害することでメラノソーム輸送を促進し,細胞外メラニン量を増加させていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでにHelminthostachys zeylanica根50%エタノール抽出物から単離同定したugonin類とquercetin配糖体の構造活性相関と活性機構の解明を行ってきた。当初はメラニン生成抑制活性を示したugoninJ,Kの構造活性相関とその活性機構の解明を目的として研究を行い,C置換基に結合する誘導体の活性への影響を調査してきた。しかし,メラニン生成を促進したquercetin配糖体の構造活性相関の調査においても,ugonin類の研究に加えて行うことができた。当初から,有機化学的な手法に加えて分子生物学的な手法を取り入れた熱帯産薬用植物成分の活性機構の解明を計画に挙げてきた。この研究計画通り,他研究室に足を運び,タンパク発現や局在を調べる分子生物学的手法を学んだ。この手法を用いてquercetin配糖体の構造活性相関の結果,活性を示した3-O-methylquercetin(化合物1)と3,4',7-O-trimethylquercetin(化合物2)の活性機構の解明を試みた。その結果,これらのメラニン合成酵素であるチロシナーゼの発現や分解に与える影響およびメラノソームの輸送に与える影響を明らかにすることができた。以上の結果から,当初のメラニン生成を抑制する薬用植物成分であるugonin類のみならず促進物質の探索とその活性機構の調査までに手を伸ばすことができたため,計画以上の成果を得たと判断した。
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