研究課題/領域番号 |
14J02306
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
古川 不可知 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | ネパール / シェルパ / 道 / ヒマラヤ / 登山 / トレッキング |
研究実績の概要 |
本研究は、道と人との関係を再考することを目的としている。とりわけネパールの山岳地帯において、ローカルタームで「道」として言及されるものと、そこを移動してゆく多様な人々の実践に焦点をあて、インフラストラクチャーと身体の相互構築という視点から研究をおこなっている。2014年度は、①3か月間の現地調査、②文献レビュー、および③中間的な成果公表作業を実施した。 ①2014年7月7日から9月22日にかけてネパール国ソルクンブ郡にて調査をおこない、シェルパ族の村で雨季の生活を調査した。その際、村の登山ガイドたちおよそ100人に対してインタビュー調査を実施し、特にエベレスト登頂者である50人ほどからライフヒストリーの集中的な聞き取りをおこなった。彼らがどのようにして山のキャリアを積み、「シェルパ」と呼ばれる登山ガイドへと自らを成型してゆくのか、またいかに環境を認識し、頂上へと至る「道」を見出してゆくのかについて考察するためのデータを収集した。 ②他の期間は日本において、先行研究のレビュー作業を実施した。特に、2000年代以降の人類学的インフラストラクチャー研究と、Tim Ingoldらによる生態学的心理学の文化人類学における応用について、集中的に文献を読み込んだ。そして前者の研究潮流の援用から、道がインフラすなわち人間活動の不可視の基盤として生成する過程が分析可能になると同時に、そこに後者の議論を重ね合わせることによって、身体に基づいて道を多様に認識しながら移動する人間の在り方を視野に収めることができると主張した。すなわち、シェルパにとっての「道」が私にとって必ずしも道ではないように、車椅子の身体にとって階段は道ではない。道への着目は、世界の自明性を多様な身体に基づいて問い直すことなのである。 ③以上に基づき、査読論文を一本発表した。また学会発表2回と研究会発表2回(うち英語1)をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度のフィールドワークにより、およそ人口500人の調査村にて全戸の世帯調査が完了した。また、村の登山ガイド/トレッキング・ガイドのほぼ全員から聞き取りを実施できた。結果は、これまでの調査データと合わせて『年報人間科学』に論文として執筆したほか、4回の口頭発表にてさまざまな側面から論じた。本年度は刊行論文は一本のみであったものの、研究会では英語と日本語それぞれ一本ずつ別のフルペーパーを提出して発表している。調査は計画通り進んでおり、成果は文章の形でまとまりつつある。以上から、本研究はおおむね順調に進展しているものと自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は春季に4か月間のフィールドワークをおこなって本研究の最終調査とする。今回は特にポーターの生活に参与して彼らの歩行の実践や環境認識を観察し、職業観などを聞き取る計画である。山岳地帯の移動を可能にする、いわば最下層のインフラとしての道とポーターの関係を明らかにするこの作業によって、当地を移動するすべての種類の人々について調査が完了する。成果は年度中に二本の論文として発表される予定である。
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