研究課題/領域番号 |
14J02354
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
住永 佳奈 京都大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 所得課税 / 譲渡 / 所有 / 実現主義 / 金融取引 / 所得概念 |
研究実績の概要 |
本研究の究極的な目的は、金融取引の特性およびこれを規律する米国内国歳入法典の規定の精査を通じて、金融取引における課税のタイミングと実現主義との関係を整理して一貫した理論を構築することである。本年度は、研究対象として、株式貸借取引と、株式貸借取引を含むものとしての有価証券貸借取引を規律する内国歳入法典1058条を取り上げた。株式貸借は、「貸借(loan)」という表記が示しているとおり、貸付けの目的物である株式の譲渡でありその含み損益についての課税の機会となるとは伝統的に考えられてこなかった。 本年度の研究の目的および方法は、米国内国歳入庁による株式貸借取引の解釈の変遷を明らかにすることによって、株式貸借取引における株式の貸付けは、株式の譲渡、すなわち株式の含み損益について所有者の変更を契機として所得課税を行う機会となりうることを紹介し、わが国の課税に比較法的な視座をもたらすことである。 本研究は、米国では、株式貸借取引で貸し付けられる株式の処分権が貸し手から借り手へ移転されるため、株式の譲渡すなわち課税の契機が生じることが原則であるが、特定の諸要件をみたす株式貸借については、内国歳入法典1058条がその譲渡により生じる損益を不認識とすることを定めているがゆえに、結果として課税は生じないことを明らかにした。このことは、株式貸借を規律する法律をもたず、株式貸借は消費貸借(すなわち目的物の所有権は元の所有者から取引の相手方へ移転する)に類する取引であることを認めながら、取引の前後における株式所有者としての貸し手の地位の変化のみに依拠して課税実務を行ってきたわが国に対して、ルールの欠如を指摘し、また、貸付けの目的物の処分権という新たな着眼点を与えると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の本年度の研究目的および研究実施計画は、金融取引の性質と内国歳入法典が定める諸規定の趣旨との関連づけを行うことである。この研究目的および研究実施計画に基づいて、本年度は、金融取引に関する個別の諸規定のひとつとして、内国歳入法典1058条(以下、「内国歳入法典」は省略して条文番号のみ述べることとする。)を取り上げた。具体的には、空売り取引(short sale)の一部として行われることの多い株式貸借取引(stock loan)の課税上の取扱いについて、実務的な取扱いおよび1058条の立法の沿革をもとに、所有と譲渡という観点からの考察を行った。 本研究の端緒となった1259条は空売り取引に関するものであり、そこから、空売り取引の一部としての株式貸借取引および1058条へと研究内容を進展させることができた。株式貸借取引は先端的な金融取引というよりは古くから行われている実務的にも重要な取引類型であることから、テクニカルな問題にとどまらず、所有とは何か、所有の裏返しとしての譲渡とは何か、譲渡と実現主義との関係はどうかといった、よりファンダメンタルな諸問題に対して示唆をもつと考えられる。このように、本年度は、研究内容を連関させ、かつ深化させることができたといえる。 また、研究成果の対外的な発信として、本年度の研究の総括として研究報告(日本税法学会第481回関西地区研究会、テーマ「株式『貸借』と譲渡について」、口頭、2015年3月28日、同志社大学志高館)を行い、研究論文として取りまとめた。この論文については、学会誌への掲載に向けて、現在査読中である。 以上のことから、本研究は、当初の研究目的および研究実施計画どおりに進行しており、「おおむね順調に進展している。」といえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度までに行った個別の金融取引についての各論的な研究を統合することおよび、全体を貫くテーマとである所得の課税上の実現(realization)そのものの明確化、の2点を大きな柱として、研究を推進していきたいと考えている。 金融取引に関する米国内国歳入法典の個別の諸規定についての研究は、規定そのものがわが国ではまだあまり紹介されていないことから、引き続き行うことが必要である。個別の諸規定の研究および紹介と同時に、それら諸規定が必要とされた根底的な理由の精査を通じて、金融取引と実現が相互に及ぼす影響を探ることをめざす。
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