研究課題/領域番号 |
14J02362
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
程 莉 神戸大学, 国際文化学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 重複 / 文法 / 構造 / 言語の対照 / 話し手の意識の推移 / 語の不透明性 / 話し手の態度 |
研究実績の概要 |
重複はその原因によって、「話し手の意識の推移による重複」「合成的表現の不透明性による重複」「話し手の態度による重複」の3種に大別できる。平成26年度はこれら3種の重複について、「主題―題述」「項―述語」「修飾―被修飾」「同格」という文法的関係の区別を導入して観察を行った。その結果は以下の4点にまとめられる: 第1点、話し手の意識の推移による重複については、「主題―題述」の構造を持つ主題文に絞り、主題文に生じる重複「~Aは~Aだ」の自然さを考察した。重複の自然さは、重複要素「A」の形態論的・語彙的性質によって異なることが観察される。 第2点、合成的表現の不透明性による重複については、「項―述語」の関係を持つ「N1をVtN2する」型表現を取りあげ、その自然さを考察した。「VtN2する」が自動詞の場合、重複の自然さには、「動詞句の他動性」が関わる部分が観察される。 第3点、話し手の態度による重複について、音声言語と文字言語との対照から、それぞれの特徴及び、重複の自然さと文法との関わりを検討した。音声言語と文字言語での重複の違いについて、「話し手の態度」に関する部分は、基本的には質的な違いではなく程度問題と考えられるが、唯一観察される質的な違いとしては、「重複の生じ得る単位」に関するものが挙げられる。 第4点、形式的な規則として定着している重複「数の一致」について、「修飾―被修飾」の構造を持つ「これらの+名詞+たち」と「これらの+数量詞+名詞」、及び、「同格」の構造を持つ「これら+数量詞+名詞」を取りあげ、中国語との対照から言語差を検討した。「数の一致」の言語差には「アニマシーの高低」と「言語構造」の問題だけではなく、語彙の問題(「これら(の)」と“這些”の違い)も関連していることが示された。 このように、重複の自然さは、語用論の問題としてだけでなく、文法の問題としても追求できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度に実施した研究の成果を、交付申請書に記載した「研究の目的」と「研究実施計画」に照らし、当初の計画以上に進展していると判断される。その理由としては、以下の3点が挙げられる: 第1点、「話し手の意識の推移による重複」と、「合成的表現の不透明性による重複」に対する検討は、予定通り研究を実施した。 第2点、「話し手の態度による重複」について、当初の計画ではD3のときに実施する予定だったが、平成26年度は音声言語と文字言語との対照から、それぞれの特徴及び、重複の自然さと文法との関わりを検討した。一つの節の中で現れる重複は文法に定着しやすく、文字言語でも音声言語でも同じように見られるが、複数の節または文節に亘って重複が現れるのは音声言語だけだということが観察される。これは、日本語の発話単位がしばしば文節になることによると考えられる。 第3点、形式的な規則として定着している重複つまり「数の一致」について、当初の計画では日本語だけを考察する予定だったが、平成26年度は中国語との対照から言語差のことも検討した。中国語の“這些”の“些”は不定数量を表すため、具体的な数量を表す数詞とは共起しにくいが、複数形のマーカー“們”と共起しやすく、「這些+名詞+們」型重複が生じ得る。これに対して、日本語の「これら(の)」の「ら」は「不定数量」の意味がないため、具体的な数量を表す数詞とも、複数形のマーカー「たち」とも共起しやすく、「これらの+名詞+たち」型重複も、「これら(の)+数量詞+名詞」型重複も生じ得る。このように、「数の一致」の言語差には「アニマシーの高低」と「言語構造」の問題だけではなく、語彙の問題(日本語の「これら(の)」と中国語の“這些”の違い)も関連していることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、主に日本語と中国語を対象に、「どのような重複が容認され、どのような重複が排除されるのか。それはなぜなのか」という問題を文法的な見地から解明し、重複に関する個別言語の文法を律する通言語的なメタ文法を構築することを目的とする。この目的を達成するためには、日本語と中国語それぞれにおける重複表現を検討するとともに、日中対照を通して、重複に関する言語差の問題を積極的に考察することが大切である。このため、今後の推進方策として、現時点では以下の2つが考えられる: まず、「合成的表現の不透明性による重複」については、平成26年度は「項―述語」の関係を持つ「N1をVtN2する」型重複表現を取りあげ、「VtN2する」が自動詞の場合に、重複の自然さと「動詞句の他動性」との関わりを考察した。今後は「VtN2する」が他動詞の場合について、VtN2の語彙構造と「N1をVtN2する」の統語構造を分析した上、重複の自然さとの関わりを検討したい。 次に、「話し手の態度による重複」については、平成26年度は日本語における音声言語と文字言語との対照から、それぞれの特徴及び、重複の自然さと文法との関わりを検討した。今後は中国語との対照から言語差のことについてさらに検討した上、仮説を精錬する。
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