研究課題
我々の研究室ではこれまでに独自に樹立した培養細胞系を用いて、Ras変異細胞が正常上皮細胞に取り囲まれると、Ras変異細胞が頂端側へ押し出される"Apical Extrusion"という現象により排除されることを明らかにした(Hogan et al., Nature Cell Biology, 2009)。本研究ではこの分子メカニズム解明に向け、①安定同位体含有アミノ酸を用いたタンパク質の質量分析による定量的比較解析法(SILAC法)および②マイクロアレイにより、タンパク質、mRNAの双方の観点より正常上皮細胞とRas変異細胞の境界で特異的に機能するタンパク質を同定し、"Apical Extrusion"によるRas変異細胞の排除を引き起こす分子メカニズムの全容解明を目指す。昨年度までにSILAC法を用いたスクリーニングにより、正常細胞とRas変異細胞の境界で特異的に増加する分泌タンパク質としてADAMDEC1の同定に成功した。さらに、ADAMDEC1はRas変異細胞に隣接する正常細胞でmRNAレベルで増加し、Ras変異細胞排除を正に制御することを明らかにした。本年度はADAMDEC1のさらなる機能解析を行い、(1)ADAMDEC1によるRas変異細胞の排除の制御はADAMDEC1のメタロプロテアーゼ活性によらないこと、(2)ADAMDEC1は正常細胞内での隣接するRas変異細胞側へのFilamin集積を促進することによりRas変異細胞排除を制御することを明らかにした。また、本年度はマイクロアレイ解析により(1)Ras変異細胞に隣接する正常細胞でmRNAレベルで特異的に増加するタンパク質としてCOX-2を同定し、(2)COX-2の発現上昇に伴なってプロスタグランジン量が増加することを明らかにした。今後はCOX-2阻害剤や発現抑制によりRas変異細胞排除への影響を検証していく。
2: おおむね順調に進展している
当初設定した研究課題のうち、SILAC法によるスクリーニングではADAMDEC1の同定に成功し、ADAMDEC1によるRas変異細胞排除の分子メカニズムに関しても着実に結果が蓄積されてきている。また、マイクロアレイによるスクリーニングではRas変異細胞に隣接する正常細胞でCOX-2が増加することを同定し、その機能的意義に関しても明らかになってきている。上述の結果は当初設定した研究課題を年次計画に沿って履行できており、研究は順調に推移していると考えている。
今後は現在までに同定したタンパク質に関して培養細胞系を用いてその機能をより詳細に解析していくことで、正常細胞と変異細胞の相互認識および変異細胞排除に関与する分子メカニズムの全容解明を目指す。また、それと同時に当研究室で樹立した細胞競合モデルマウスを用い、生体内においてもRas変異細胞と正常細胞の境界で特異的に発現上昇するか、Ras変異細胞の排除を制御する因子であるか検証を進めていく。研究はこれまでのところ順調に推移しており、現在のところ研究計画変更の必要性および研究遂行上の問題点はない。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
Molecular Biology of the Cell
巻: 27 ページ: 491-499
10.1091/mbc.E15-03-0161