研究実績の概要 |
集合的効力感は“あるレベルに到達するため必要な一連の行動を体系化し,実行する統合的な能力に関する集団で共有された信念”と定義され,操作的に集団内平均値と集団内分散によって表される(Bandura, 1997)。本年度は集合的効力感の概念特性を明らかにするための研究を2件実施した。研究1では集合的効力感の集団内分散の予測力について検討した。集合的効力感の集団内分散は集団内平均値と同程度に意義がある(Zaccaro et al., 2005)にも関わらず,専ら集団内平均値に着目して集団効果性との関連性が検討されてきた。そこで,研究1では集合的効力感の集団内分散が集団効果性に対して予測力を有するのかについて検討した。その結果,集合的効力感の集団内分散は集団内平均値の予測力を超えて集団効果性の1つである集団凝集性を予測した。この結果は,集合的効力感の集団内分散が集団効果性を予測するうえで重要な指標になり得ることを示唆するものであった。研究2ではスポーツ集団内における集合的効力感の形成過程について検討した。先行研究では集合的効力感の集団内平均値は過去経験(試合の勝敗)と密接に関連することが報告されている(e.g., Feltz & Lirgg, 1998)。しかし,過去経験が集合的効力感の集団内平均値を構成する成員1人1人の集合的効力感に対して等しく影響するとは考えにくい。そこで,研究2では各成員が過去経験を経た後にどのように集合的効力感を評価しているのか実験的に検討した。その結果,課題遂行能力という点で優位にある成員は集合的効力感を評価する際に自己の貢献可能性を手がかりに評価していた。その一方で,劣位にある成員は他者の貢献可能性を手がかりに評価していた。そして,これら2つの形成過程は集合的努力モデル(Karau & Williams, 1993)によって説明可能であった。
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