生体中にはナノスケールで自律的運動や機械的仕事を行う様々な分子機構が存在し、高度かつ複雑な生命現象を支えている。このような天然ナノマシンに匹敵する素子を人工的に構築できれば、細胞工学や材料工学における有用なツールとなると期待される。こうした機能性のデバイスの創製に向けた試みが近年盛んになされているが、柔軟な分子構造が協同的に機能する天然ナノマシンのような多様な動作や高効率な仕事をさせるに至っていない。天然のナノマシンに倣い、構造中に可動部位(関節様構造)を組み込むことが有効な方策として考えられるが、そのような構造の作製は従来のフォトリソグラフィー等の微細加工技術のみでは一般的に困難であり、実験的な知見はほとんど得られていない。 そこで本研究では、関節構造を持つマイクロモータの構築手法を提案し、周囲の環境に応答した変形運動といった単純な並進運動を超えた高度な運動性の実現を図った。 本モータは、陽極酸化ポーラスアルミナ内で電析させた酸化銅(I)/金/ニッケルマイクロロッドを基本構造としている。ここで、ニッケル部位は外部磁場により予め磁化されており、例えば、2本の酸化銅(I)/金/ニッケルロッドを近接させることでニッケル部位同士を結合させ、関節構造を持つマイクロモータを形成することができる。本モータを純水中で観察すると、ブラウン運動による接合部のゆらぎが観察された。このことより、この関節が可動的なものであることが分かる。さらに、紫外光照射下での過酸化水素水溶液における酸化銅(I)/金上での電気化学反応による自発駆動力と、外部磁場の印加との組み合わせにより、関節構造の可逆的な開閉運動が実現された。 以上は、可動部位を持つ構造の作製法とその力学的挙動の実験的評価手段を提供するものである。これにより、高度な運動性を有するマイクロモータの構築の一つの道筋が示されるものと考えられる。
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