研究課題
当研究室では「がんはどのように発生しているのか」という基本原理の解明のため、イヌ腎上皮由来・非形質転換の細胞株であるMDCK細胞を用いたin vitroモデルシステムを樹立し、哺乳類細胞において正常細胞と変異細胞の境界で互いの違いを認識して起こる相互作用の解析を行っている。特に、当研究室で見出されたRasあるいはSrcが活性化した変異細胞が正常上皮細胞に囲まれると細胞層の頂端側に排除される現象(apical extrusion)は新規がん治療のコンセプトとなることが期待される。本研究では細胞の輸送系として知られるエンドサイトーシス機構がapical extrusionにどのように関与しているかを解明することを目的としている。1年目である本年は、正常細胞に囲まれたRas変異細胞におけるエンドサイトーシスの制御にどのような変化が起きているかを解析した。蛍光標識トランスフェリンを用いた取り込みアッセイや、Rab5のドミナントネガティブ変異体Rab5S34Nを発現するRas変異細胞およびエンドサイトーシスに対する阻害剤によりエンドサイトーシスを抑制した条件下での蛍光免疫染色を行った。その結果、Ras細胞は正常細胞に囲まれたときにクラスリン依存的なエンドサイトーシス経路が亢進していること、正常細胞に囲まれたRas変異細胞におけるRab5の機能は下流のエンドサイトーシス関連タンパク質の集積に関与していることが示された。このことから、正常細胞に囲まれたRas細胞においてはクラスリン依存性エンドサイトーシス~分解系ヘの経路が亢進していることが示唆された。さらに、エンドサイトーシスに対する阻害剤存在下ではRas細胞のapical extrusionが抑制され、Ras細胞が仮足を伸ばすようになることが観察されたことから、エンドサイトーシス経路はRas変異細胞のapical extrusionや形態変化といった、正常細胞に囲まれたときのRas細胞の振る舞いの決定に関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
申請時、今年度の目標は以下のように設定していた。1. MDCK細胞を用いた細胞競合モデルシステムに対して、エンドサイトーシス経路の第一段階である細胞外物質の取り込みが、正常細胞に囲まれた変異細胞においてどのように変化しているか解析する。2. Rab5のドミナントネガティブ変異体Rab5S34Nを発現するRas変異細胞を用いて、Rab5が正常細胞に囲まれた変異細胞におけるエンドサイトーシス関連タンパク質の集積に与える影響を蛍光免疫染色により解析する。3. エンドサイトーシス阻害剤で処理したときに、正常細胞に囲まれた変異細胞の排出およびエンドサイトーシス関連タンパク質の集積に影響を及ぼすかどうか検証する。今年度は以上3つのテーマに対し、十分な解析結果が得られたことから、上記の通り評価した。
今後は、Ras変異細胞において活性化しているエンドサイトーシス経路に対して、Ras細胞において集積しているRab5の活性化状態はどうなっているか、活性化Rab5特異的な抗体を用いて検証する。また、Ras変異細胞で集積しているRab5と相互作用しているタンパク質についても、免疫沈降法により探索を行う予定である。更に、Ras変異細胞におけるエンドサイトーシスによって制御されている膜タンパク質についてもエンドソーム分画を介したスクリーニングをおこなっていくことにより、“Ras細胞は正常細胞に囲まれたことによってなぜエンドサイトーシスを亢進させるのか、その結果どのような挙動を引き起こしているのか”を解明していく予定である。
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Cancer Cell International
巻: Volume 14 ページ: -
10.1186/s12935-014-0108-6
Nature Communications
巻: 5 ページ: -
10.1038/ncomms5428