研究課題
本研究では「がんはどのように発生しているのか」という基本原理の解明のため、イヌ腎上皮由来・非形質転換の細胞株であるMDCK細胞を用いた哺乳類培養細胞モデルシステムを樹立し、正常細胞と変異細胞の境界で互いの違いを認識して起こる相互作用の解析を行っている。申請者は正常細胞に囲まれたRas変異細胞においてRab5, Rab7といったエンドサイトーシスで機能するタンパク質が集積し、変異細胞の排除に重要な役割を果たしていることを見出したことから、細胞の輸送系として知られるエンドサイトーシス機構が変異細胞の排除にどのように関与しているかを解明することを目的としている。今年度はRab5の機能に依存して変異細胞の細胞質に集積したE-cadherinの微細構造に迫るため、超解像顕微鏡を用いた観察を行った。得られた画像に対して定量解析を行ったところ、細胞質におけるE-cadherin顆粒の数と総輝度が増加していた。更にE-cadherin顆粒の一部は初期エンドソームマーカーEEA1と一部共局在していたことから、Ras変異細胞は正常細胞に囲まれるとE-cadherinが顆粒状に、初期エンドソームを経由して細胞内に集積していることが明らかとなった。今年度の研究で明らかにした、正常細胞と超初期のがん細胞との相互作用により、エンドサイトーシス経路の活性化することで細胞間接着を制御し、変異細胞の排除に寄与しているという結果は世界で初めての知見である。本研究結果は今年度に国際総合学術誌に受理・掲載された。加えて本研究により、がん発生の超初期段階の細胞培養モデルを超解像顕微鏡で解析する実験系を確立した。この成果は今後の哺乳類細胞の細胞競合の領域において、細胞膜構造・細胞小器官・細胞骨格といった細胞の微小構造の観察所見から分子メカニズムに迫る、研究戦略のパラダイム展開に大きく貢献することが期待される。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
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Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 114(12) ページ: E2327-E2336
10.1073/pnas.1602349114.