研究実績の概要 |
今年度は、活性種としてあまり注目されていないルテニウム(III)-ヒドロキソ錯体の水中における反応性について検討を行った。まず、5座ポリピリジル配位子PY5Me2 (= 2,6-bis{1,1- bis(2-pyridyl)ethyl}pyridine)を有するルテニウム(II)-アクア錯体を電解酸化し、ルテニウム(III)-ヒドロキソ錯体を生成させ、それを酸化活性種として、アスコルビン酸やヒドロキノン誘導体、及びそれらの重水素化体を基質とした酸化反応を行った。その結果、基質濃度に対して見かけの速度定数が飽和挙動を示し、基質と酸化活性種との間に、水素結合によるアダクト形成平衡の存在が示された。2,5-ジクロロヒドロキノンを基質とした場合、同位体効果は1.7であることから、HATが律速過程に含まれることが示唆されたのに対し、酸化電位が低いヒドロキノンなどを基質に用いた場合には、反応速度が大きく同位体効果も示さないため、ET機構で反応が進行するものと考えられる。また、速度定数の対数を電子移動のドライビングフォース(-ΔGET)に対してプロットした結果、-ΔGETが大きくなっていく際に、-ΔGET ~ +0.5 eVにおいて、基質反応の律速段階がHATからETへと切り替わることが明らかになった。 また、今年度は、架橋部位としてピリミジンを有する、ピリジルメチルアミン2核化配位子、bpmpm (= 4,6-bis[(N,N- bis(2'-pyridylmethyl)amino)methyl]pyrimidine)から、ルテニウム(II)4核錯体を合成した。ブチロニトリル中、193 Kで、4核錯体と酸化剤であるアミニウム塩を反応させた際のUV-Visスペクトルにおいて、混合原子価状態に基づく原子価間電荷移動(IVCT)吸収帯が、3当量の酸化剤の添加により近赤外領域に観測された。また、4核錯体のIVCTから得られたパラメーターから、ルテニウム4核錯体を3電子酸化した際に形成される混合原子価錯体は、Robin-Dayの分類におけるクラスII(部分的な電荷の非局在化)であった。
|