今年度は、ピリジルメチルアミン系配位子を有するRu(II)-アクア錯体を触媒、酸素を酸化剤とした基質酸化反応について検討を行った。まず、3配位子であるTPA (= tris-2-pyridylmethylamine)を有するRu(II)-TPAアクア錯体、[RuII(TPA)(H2O)2]2+を合成した。また、反応の比較対象として、TPAのピリジン環のうち1つをそれぞれピリミジン、ピラジンにしたbppa (= bis(2-pyridylmethyl)(2-pyrimidylmethyl)amine)、bppza (= bis(2-pyridylmethyl)(2-pyrazylmethyl)amine)配位子についても合成を行い、Ru(II)-TPAアクア錯体の場合と同様の手順で、アクア錯体であるRu(II)-bppa、Ru(II)-bppzaを新たに得た。次に、これらのRu-アクア錯体を触媒として、スチレンやベンジルアルコール類を基質とした触媒的酸化反応を行った。このRu-TPAアクア錯体を触媒、水中、CAN(=[CeIV(NO3)6](NH4)2)を酸化剤とし、オレフィンやアルコールなどの有機物を基質とした酸化反応では、それぞれの基質ごとに単一の生成物を与える高い選択性と、酸化効率が100%に近い高い活性を示した。しかし、水中、酸素を酸化剤とした場合、アクア錯体から活性種であるオキソ錯体は効率よく生成しなかったため、酸化生成物の収率は10%以下という低い値を示した。また、溶媒を水中だけでなく、触媒である錯体が可溶な有機溶媒でも反応を試みたが、高い還元電位を有するCeIV酸化剤と比較すると、酸素による触媒的基質酸化反応は非常に低い数値であった(0 ~ 10%)。また、プロトン化サイトを有するbppa、bppzaを配位子としたルテニウム錯体を触媒、スチレンなどを基質とした酸素酸化反応における反応収率も低く、Ru(II)-TPAアクア錯体の場合と同様の数値を示したため、酸素酸化におけるプロトン化サイトの優位性を見いだすことはできなかった。
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