研究課題/領域番号 |
14J02439
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
磯崎 直人 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 微小管 / 分子分離 / 電荷 / 曲げ剛性 / マイクロ流路 / キネシン |
研究実績の概要 |
細胞内物質輸送の役割を担っているキネシンと微小管の系を生体外で再現し,微小管を分子シャトルとして用いる分子分離・濃縮手法の基礎を確立した.微小管は負に帯電しており,キネシン上を動く微小管に対して電界を印加すると,元々ランダムだった微小管の運動方向が電界に沿うようになる.本研究では微小管の電荷と固さを設計し,これらの特性に応じて微小管の運動軌跡を制御した. まず,長さの異なる二種類のDNAを使って,微小管の電荷を改変した.これは,DNAは長くなるにつれ大きい負電荷を持つためである.長いDNAのついた微小管,短いDNAのついた微小管,DNAのついていない微小管の三種類について電荷を計測したところ,DNAがついている方が,またDNAが長い方が,微小管の負電荷が有意に大きかった.これら三種類の微小管を一様電界中で運動させたところ,負電荷が大きくなるにつれ軌跡の曲率半径が有意に小さくなることがわかった. 次に,重合条件を変えることで固さの異なる二種類の微小管を作製した.これらの微小管を一様電界中で運動させたところ,軟らかい微小管の方が固い微小管に比べて軌跡の曲率半径が有意に小さかった.得られた曲率半径から予測される軌跡を基に,微小管分離部を持ったマイクロ流路を作製し,この中で二種類の微小管を運動させたところ,微小管はその固さに応じて分離された.また,その分離効率は約75%以上と,高い値を示した. 以上の技術を組み合わせることで,微小管につけたターゲット分子を精度良くかつ効率よく,自律的に分離させることが可能になる.さらに,マイクロ流路に微小管捕捉部を設ければ,チップ上で分子の分離と濃縮を同時におこなうことができると考えられる.これは,分子の検出精度の向上に直結するものであるため,本研究はキネシンと微小管の系を用いた実用的な診断アプリケーションの実現に向けて非常に重要なものであると言える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初から計画していた微小管の電荷改変による運動方向制御は予定通り遂行でき,実験結果も概ね当初期待していた通りであった.また,測定した微小管の電荷から軌跡を予測することも可能となり,これは後述のマイクロ流路構造の最適化に向けて重要な成果となった.さらに,当初の予定に加えて微小管の曲げ剛性を改変する実験にも着手し,こちらも期待していた通り,曲げ剛性に応じて微小管の軌跡が変化した.予測される微小管の軌跡を基に,構造を最適化したマイクロ流路内での分離実験もおこない,ある程度高い分離効率が示された.これらの成果は英文ジャーナルや国際学会で発表済みであり,ある程度の評価を得ている.以上のことから,当初の計画以上に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
微小管の分離効率をさらに高めるため,タウなどの微小管結合タンパク質を用いて微小管の曲げ剛性を自在に改変することを目指す.平行して,改変された微小管の曲げ剛性を測定し,重合条件や微小管結合タンパク質の有無が微小管の曲げ剛性にどれだけ影響を与えるか,また,どのようなメカニズムで影響を与えるか,などを定量的に評価していく.DNAを用いた微小管の電荷制御と組み合わせることで,微小管運動軌跡をより自在に制御できるよう進めていく.最終的には,効率的な分子分離・濃縮システムの構築を目指す.
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