研究課題/領域番号 |
14J02439
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
磯崎 直人 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 微小管 / 曲げ剛性 / 分子分離 / キネシン / マイクロ流路 / MEMS / MicroTAS |
研究実績の概要 |
平成27年度は,課題として挙げた微小管の曲げ剛性制御技術を確立した.まず,バッファ溶液中での微小管の熱揺らぎから曲げ剛性を測定する手法を,マサチューセッツ大学のJ. L. Ross准教授のもとで三ヶ月学んで習得し,自らの系に合うよう調整した.次に,重合中のタウタンパク質の有無,ヌクレオチドの種類,そしてチューブリン濃度を変えた六種類の微小管を準備し,それぞれの曲げ剛性を測定した.結果として,タウタンパク質は曲げ剛性に影響を与えないこと,ヌクレオチドとチューブリン濃度は有意に影響を与えることを明らかとした.これにより,曲げ剛性の異なる四種類の微小管を作製することに成功した.平成26年度におこなった実験で,曲げ剛性の差に応じて二種類の微小管が一様電界中で異なる軌跡を取り,マイクロ流路内で約75%の精度で分離できることを既に示した.したがって,今回の微小管曲げ剛性制御技術は,曲げ剛性に応じた四種類の微小管の同時分離を可能にするものであると言える.あるいは二種類の分離に限定する場合,最も固い微小管と軟らかい微小管の組み合わせを選ぶことで,さらなる分離精度の向上が期待できる.これらは,既に確立されている微小管への分子修飾技術と組み合わせることで,本研究の目的である複数分子の自律的な分離につながるものである.また同時に,微小管の曲げ剛性変化は生物物理学の分野においても強い関心が持たれており,今回の結果は生物物理学者約7000人が集まる最大規模の学会,Biophysical Society 60th Annual Meetingに採択された.以上のことから,平成27年度はナノテクノロジー及び生物物理学双方の分野にとって重要な知見を得たと言える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マサチューセッツ大学への三ヶ月の留学や,計測系を一から構築した影響もあり,当初目的としていたマイクロ流路内での微小管分離まで実証することはできなかった.しかし,平成26年度の結果と合わせれば,平成27年度に得られた微小管の曲げ剛性に関する緻密なデータの積み重ねは,提案する系を用いた高効率な微小管分離の実現可能性を充分に示すものである.現状,課題の進捗状況はやや遅れてはいるが,要素技術の確立はできているため,平成28年度に充分取り戻せると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
マイクロ流路内での微小管および分子の分離システムを実証する.微小管の曲げ剛性のみならず電荷も同時に改変することで,さらに微小管の運動軌跡制御能を向上させ,高精度な複数分子同時分離システムを構築する.また次の展開として,平成27年度に構築した曲げ剛性測定系を用い,外部からの衝撃に対する微小管の曲げ剛性変化を評価することを考えている.頭部への物理的な衝撃が微小管の機械的特性やモータタンパク質との結合性を変化させ,外傷性脳損傷を引き起こすことが示唆されているため,表面弾性波デバイスなどを用いてin vitroで直接衝撃を与えた微小管の曲げ剛性の力学応答性を調べれば,外傷性脳損傷の発生メカニズムをタンパク質レベルで解明することが可能になる.これは医学的発展に大きく貢献できるものであると考える.
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