研究課題/領域番号 |
14J02441
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
廣瀬 大祐 金沢大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 鉄触媒 / 光延反応 / ヒドラジン / 酸素 / グリーンケミストリー / フタロシアニン / 反応機構解析 |
研究実績の概要 |
触媒的光延反応の機構解析を行い、得られた知見を基に条件最適化を行った。エチル2-フェニルアゾカルボキシラートとホスフィンとのベタイン形成反応を観察したところ、本ベタイン形成は平衡関係にあることがわかった。さらに置換基効果の検討を行ったところ、電子求引基を有する場合に、平衡がベタイン側へ片寄ることが判明した。次にエチル2-フェニルヒドラジンカルボキシラートを基質とした鉄触媒と酸素による酸化反応を追跡したところ、反応速度は0次に従うことが明らかとなった。さらに、置換基が反応速度に与える影響を調べたところ、いずれの置換基を有する場合も無置換体と比べ反応が加速されることが判明し、ラジカル中間体の関与が示唆された。ここまでの検討から光延触媒には、ベタインの形成では電子求引基が必要である一方で、酸化段階においてはラジカル種を安定化する官能基があればよいことがわかった。この事実はエチル2-(3,4-ジクロロフェニル)ヒドラジンカルボキシラートが最適触媒である理由をよく説明する。一方で、これらの結果に基づけば、比較的強い電子求引基を有する触媒が効果的だと考えられる。そこで、1級アルコールとフタルイミドを基質として光延触媒の検討を行ったところ、4位にシアノ基を持つ触媒を用いた場合に、より高い収率で生成物が得られた。しかし、生成物の立体選択性が問題となる2級アルコールとカルボン酸に代えて検討を行ったところ、立体選択性の低下が確認された。これらの事実は、適切な光延触媒を選択することで幅広い基質に対応できる可能性を示している。ここまでの知見を基に、反応条件の最適化と基質一般性の検討を行ったところ、二つの触媒を併用することで最終的に触媒量10 mol%、室温条件において17種類の基質に対応する目的物を良好な収率で得ることができた。また一部の基質においては両触媒量を3 mol%に抑えることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、申請者が以前に開発した酸素を酸化剤とする触媒的光延反応を、実験室レベルでの光延反応の代替法として確立させることを目標として研究を行った。具体的には ①目的物を中程度の収率でしか得ることのできない現行の反応条件の改善 ②酸性度の低い基質に対しても効果的に作用する新規光延触媒の開発 ③ 10 mol%の触媒量を10分の1 (1 mol%)以下に抑制することの三つを課題として検討を行った。①については乳酸エチルと4-ニトロ安息香酸をモデル基質として、既存の最適光延触媒であるエチル2-(3,4-ジクロロフェニル)ヒドラジンカルボキシラートを軸に、溶媒、反応濃度、乾燥剤等に関して一から反応条件の最適化を行った。その結果、当初は反応温度65℃、収率50%、立体選択性97:3であった反応を、室温条件下において収率93%、立体選択性99:1と反応性を大幅に高めることに成功した。②に関しては、光延触媒の酸化段階及び光延反応段階における置換基効果を調べることで、酸性度の低い求核剤に対して既存の最適触媒よりも効果的に作用するエチル2-(4-シアノフェニル)ヒドラジンカルボキシラートを見出した。本触媒とエチル2-(3,4-ジクロロフェニル)ヒドラジンカルボキシラートを①で見出した最適条件下において相補的に用いることで、触媒的光延反応の基質一般性を大幅に向上させることに成功した。③では一部の基質において、光延触媒及び鉄触媒の両使用量を10 mol%から3 mol%へ削減できる可能性を見出したが、当初の目標値として掲げていた1 mol%には達しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では触媒的光延反応を工業的スケールでのバッチ反応に適用可能な段階にまで高めることを目標とする。本年度の結果から、二触媒系の触媒的光延反応においては触媒間の接触確率の問題から、3 mol%付近に触媒量低減の限界があることが明らかとなった。そのため当初の計画に従い、鉄触媒及び光延触媒を化学的に結びつけたハイブリッド型光延触媒を設計し、二触媒系から単一触媒系に切り替えることで、触媒量1 mol%以下に抑えることを具体的な目標とする。単純に鉄触媒と光延触媒をアルキル鎖でつなぐハイブリッド化に留まらずに、光延触媒を金属種の配位子に用いる等の柔軟な発想に基づいた触媒設計を行う。一方で、過去に報告している通り、光延触媒は反応終了後にアゾ体、もしくは還元処理を施すことでヒドラジン体とした後にカラムクロマトグラフィーを用いて分離、回収することが可能である。しかし、触媒の再利用性及び目的物の精製の観点から考えると、濾過や分液操作で容易に除去、回収できることが望ましい。酸化触媒として用いるフタロシアニン鉄は無極性溶媒にほとんど溶解性を示さず、濾過のみでその大部分を回収可能であることが長所として挙げられるが、ハイブリッド化を施すことで光延触媒の回収性を共に高めることができる触媒設計を計画している。開発した高活性ハイブリッド型光延触媒が実際に何サイクルまでの利用が可能であるかについて、モデル基質を用いて再利用性の評価を行う。
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