研究実績の概要 |
本年度は、触媒的光延反応に関する研究の中から前年度に新たに利用価値を見出した光延触媒の再酸化容易な光延試薬としての性質について明らかにした。前年度に最適化検討で見出した光延試薬2-(3,4-ジクロロフェニル)アゾカルボキシレート を用いて、一般的な光延試薬であるジエチルアゾジカルボキシラート(DEAD)を用いた場合の基質適用範囲に含まれる基質を用いて検討を行ったところ、ほぼ全ての基質に対して有効に機能することが示された。生成物の立体選択性の問題が生じる基質や求核剤の酸性度が問題となる基質に対しても、試薬の芳香環上の官能基を適切に選択することで適用範囲が広がることを明らかにした。また、前年度にone-potでの再酸化によって反応に用いた光延試薬および目的物を容易に回収する手法を報告しているが、今年度は酸化に弱い基質4種類に対しても本手法が有効に機能することを示した。 開発した光延触媒を工業的スケールで利用するために最も重要な安全性に関する知見を得るために、触媒の酸化体であるアゾ化合物の安定性に関して前年度に引き続きさらなる評価検討を行った。具体的には、密封セル示差走査熱量計 (SG-DSC)を用いて耐圧容器中での熱分解の挙動を観察することによって、汎用される光延試薬と比べて熱分解温度が上昇していることを示した。 本研究課題で扱う触媒的光延反応は酸化剤側であるアゾ化合物のみを触媒化した反応であるが、この知見を基に他のグループが発表したアゾ化合物と還元剤のホスフィン化合物が共に触媒化された両触媒型光延反応が、光延反応機構で進行しない異なる反応系であることを示し、真の両触媒型光延反応を開発するために今後解決しなければならない課題を明らかにした。 得られた研究成果の一部は日本化学会第97春季大会等にて学会発表を行い、その詳細をまとめたものは海外学術誌に掲載された。
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