研究課題/領域番号 |
14J02447
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 英治 北海道大学, 工学研究院, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | シリルボラン / ホウ素化 / アルケニルホウ素化合物 / トリアリールボラン / アリールハライド / アルケニルハライド / 極性転換 / ジメシチルボリル基 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、研究実施に先立ち、シリルボランが塩基存在下、有機ハロゲン化合物に対して全く新しい極性転換型のホウ素化剤として働くことを明らかにしている。本研究では、この反応を有用な有機ホウ素化合物の合成に応用することを目的とする。初年度は、アルケニルハライドの立体特異的なホウ素化(課題1)および新ホウ素π共役系構築法(課題2)の開発に取り組み、それらの効率的合成法の開発に成功した。以下、順を追って概説する。 アルケニルホウ素化合物は、優れた合成中間体であるが、その立体選択的合成法は限られている。課題1では、Z-ヨードアルケンに対し、反応条件を検討したところ、塩基としてNaOEtを用いることで、高立体特異的かつ高収率で対応するZ-アルケニルホウ素化合物を得ることに成功した。この反応はE-ヨードアルケンに対しても適用可能である。特に、Z-アルケニルホウ素化合物は、遷移金属触媒を用いることなく、温和な条件で選択的に合成することが難しいため、合成的価値が高いといえる。 次に課題2では、新ホウ素π共役系構築法の開発に取り組んだ。トリアリールボランは有機材料として期待されている重要な化合物である。しかし、その合成法は強酸性または強塩基性条件を用いる基質適用範囲の狭い手法に限られている。そこで、本研究ではジメシチルボリル基を有するシリルボランを用いてアリールハライドのホウ素化を検討した。その結果、塩基としてNa(O-t-Bu)を用い、1,4-dioxane/hexane溶媒中、50℃で反応させることにより目的の反応が高収率かつ高ホウ素置換選択的に進行することを明らかにした。また、本反応はジメチルアミノ基やエーテル基、アルケニル基など様々な官能基を持つ基質に対して適用可能である。また、これらの成果に加えて、関連する反応機構解析やホウ素化反応の開発においても新たな知見を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は順調に進展していると考えている。初年度では以下の成果が得られている。 1. アルケニルハライドの立体特異的ホウ素化およびヘテロアリールハライドのホウ素化を検討し、効率的に反応が進行することを明らかにした。Chem. Sci. 誌に発表済み。 2. 新ホウ素π共役系構築法の開発として、ジメシチルボリル基を有するシリルボランを用いたトリアリールボランの新規合成法の開発に成功した。投稿準備中。 3. 共同研究により、シリルボランと塩基を用いたアリールハライドのホウ素置換反応における反応機構解析を達成した。研究代表者が行った実験的手法による解析に加え、北海道大学理学研究院武次研と共同で実施した密度汎関数法及び自動反応経路探索法(AFIR法)を利用した反応機構解析により、本反応が、ケイ素求核剤によるハロゲノ基への求核攻撃を伴う、アリールアニオン経由型機構で進行することを明らかにした。J. Am. Chem. Soc. 誌に発表済み。 4. 立体効果を利用した新規シリルボランの合成とその応用を検討した結果、水や空気に安定なシリルボランの合成に成功し、またアリールハライドのホウ素置換反応へ利用できることを新たに見出した。 初年度の予定では、2の項目のみを達成する計画であったが、結果的には他にもいくつかの成果を挙げることができているため、研究は順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
新ホウ素π共役系構築法の開発において見出した、トリアリールボラン合成における反応系では、エステルやケトンなど塩基性条件に弱い官能基共存下において、目的生成物の収率が大きく低下してしまうという課題がこれまでの検討の中で明らかになっている。この課題を克服できれば、本反応の合成的有用性が飛躍的に向上するため、引き続きこの課題解決に向けて取り組む予定である。この問題の解決には、基本的な反応条件(溶媒、温度、塩基の種類、添加物)の再検討やシリルボランのケイ素、ホウ素上に立体的、電子的な性質の異なる置換基を備えた新規ジアリールシリルボランを用いた検討が必要であると考えている。また、ケイ素を同族のスズと置き換えたSn-B結合を有する新規ホウ素化剤の開発も視野に入れる。スズはケイ素と比べて毒性が高いという欠点はあるものの、トリアリールボランの合成手法が限られている現状においては十分に検討の価値はあるものと考えている。また、並行して反応機構の解析を実施し、得られた知見を反応条件の改良や反応剤の合理的デザインへとフィードバックする必要があると考えている。このようなアプローチの例として、様々なシリルリチウムを用いたアリールハライドのケイ素置換反応についての検討が挙げられる。この検討を行うことで、反応の開始段階として重要な、シリル求核剤によるハロゲノ基に対する求核攻撃の性質についての知見が得られることが期待できる。また、現在M. S. Sigman研に留学し、置換基の立体効果や電子的影響から反応性・選択性を予測する解析手法について学んでおり、この方法を本反応の改良に応用することを予定している。
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