研究代表者は、研究実施に先立ち、シリルボランが塩基存在下、有機ハロゲン化合物に対して全く新しい極性転換型ホウ素化剤として働くことを明らかにしている。本研究では、この反応を有用な有機ホウ素化合物の合成に応用することを目的とする。採用2年度は、留学先のM. S. Sigman 研で置換基の立体効果や電子的影響から反応性、選択性を予測する手法について学ぶとともに、新反応開発にも取り組み、新たな高エナンチオ選択的三成分カップリング反応の開発に成功した(生成物の不斉収率:最大96% ee)。また、ホウ素置換反応の収率やホウ素化/ケイ素化選択性の向上および反応剤の取扱い易さの改善に向けた、新規シリルボランの設計および合成の検討や関連するホウ素化反応の開発を行った。特に新規シリルボランの開発における研究成果について詳述する。 これまで極性転換型のホウ素化剤として用いてきたジメチルフェニルシリルボロン酸ピナコールエステルの空気や湿気に対する安定性やホウ素化/ケイ素化選択性の向上に向け、嵩高いトリス(トリメチルシリル)基を有するシリルボランの合成に取り組んだ。 求核剤として、テトラ(トリメチルシリル)シランから発生させたトリス(トリメチルシリル)シリルカリウムを用い、ホウ酸エステルとの反応させることで、目的のトリス(トリメチルシリル)シリルボロン酸エステルを中程度から良好な収率で得ることに成功した。これらのシリルボランは、空気や湿気に対して安定であり、シリカゲルカラムを用いた精製が可能である。さらに、これらのシリルボランを用いて、塩基存在下におけるホウ素置換反応を検討したところ、良好な収率およびホウ素置換選択性で目的のアリールホウ素化合物をえることに成功した。また、これらのシリルボランは、塩基触媒を用いるスチレン類のシリルボリル化にも適用可能であることを見出した。
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