研究課題/領域番号 |
14J02457
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大澤 歩 北海道大学, 総合化学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | Kansuinine A / triazapentalene / TAP / ケミカルバイオロジー / NGF / 蛍光 |
研究実績の概要 |
筆者らは、コンパクトかつ中性な新規蛍光分子1,3a,6a-トリアザペンタレン(TAP)を開発し、その基本的性質を明らかとするとともに、生物活性小分子の蛍光プローブへの有効性を調査してきた。本研究では、神経成長因子NGFの生産を強力に促進する天然物カンスイニンAのTAPによる蛍光プローブ開発を目的とした。 まず、TAPの吸収・蛍光過程について量子化学計算を行い、詳細を調査した。その結果、計算結果と実験結果にはよい相関がみられ、計算により発光メカニズムを理論的に裏付けることができた。さらに、種々の置換基をもつTAPの吸収・蛍光波長を計算から予測可能であることを見出した。これはTAPの蛍光性についてはじめて理論的に説明した例であり、プローブ分子の設計やタンパク質との相互作用を検知するのに役立つと期待される。また、これまでにTAPラベル化剤としてN-ヒドロキシコハク酸イミドエステル体を開発し、アミノ酸の標識に成功していたが、その収率は3割程度と低いものであった。そこで、反応条件を精査した結果、ラベル化体を80%以上で得ることに成功した。この手法はペプチドや複雑なアミノ酸であるムギネ酸のラベル化にも適用でき、いずれの場合も高収率で生成物が得られることから、複雑な構造をもつ生物活性小分子のプローブ開発に利用可能と期待される。この成果は論文として報告することができた。 さらに蛍光プローブの開発に先立ちカンスイニンAの全合成に着手し、5員環部を含むフラグメントおよびポリオール部をもつフラグメントをそれぞれ合成した。当初の計画に従った両者の連結は困難であったが、種々基質の検討を行った結果、アルドール反応による連結法を見いだした。今後はNHK反応によるマクロ環化反応を経て全合成を完了する計画である。この結果は天然有機化合物討論会にて報告することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
TAPの導入については多くの知見を得ることができ、効率的なTAP導入法を確立することができた。 一方、カンスイニンAの全合成においては当初計画していた2フラグメントの連結が困難であったことから、連結法の見直しとフラグメントのデザインの変更を余儀なくされた。この検討に予定外の時間を費やすことになったが、検討の末、両フラグメントの連結に成功している。今後は続く変換とマクロ環化反応を経て、迅速に全合成を達成する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きカンスイニンAの全合成研究を推進し、蛍光プローブ分子の開発を目指す。カンスイニンAの全合成における残す課題は、Ni,Cr触媒を用いたNHK反応によるマクロ環化反応である。この反応には特殊な操作や設備を必要とするが、開発者であるハーバード大学岸教授のもと実験操作等のノウハウを習得し、カンスイニンAの全合成を達成する計画である。
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