本研究では、NGF生産促進物質カンスイニンAの作用機構解明を目的とし、カンスイニンAの全合成研究に取り組んでいる。本年度は、主にカンスイニンAのフラグメント連結方法の改良を行ったので以下に研究進捗状況を報告する。 カンスイニンAの構造活性相関研究および蛍光標識体作製のためには、分子内の任意の箇所、特に水酸基を容易に修飾、変更が可能であることに加え、量的供給に耐えうる効率的な合成法が求められる。そこで、 左右2つのフラグメントの連結に続いて、Ni/Cr触媒を用いた分子内NHKカップリング反応により12員環骨格を構築する収束的な合成ルートを計画した。前年度までに、アルドール反応による左右フラグメントの連結に成功していたが、再現性と収率が低いこと、および3つの連続する水酸基の選択的なエステル化が困難であることが問題であった。そこで新たな合成計画として5員環ケトンとフリル金属種による連結を立案し、前駆体としてブロモフランを設定した。実際にブロモフラン中間体は既知の光学活性エポキシドから14工程で合成され、3つの水酸基の区別が容易であった。得られたブロモフランにブチルリチウムを作用させアニオン種を調製後、ケトンとの反応に付したところ、反応は30分以内に完結し、単一の異性体としてカップリング体を得ることに成功した。現在、NHK反応前駆体への変換を検討中であり、その後触媒的NHK反応により12員環骨格を構築し、フラン部位の変換を経てカンスイニンAの全合成を達成する予定である。
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