研究実績の概要 |
本研究では、瀬戸内海における窒素固定ラン藻の役割の解明を目指し、①分子生物学的手法を用いた窒素固定ラン藻の分布・多様性の解明という生態学的アプローチと、②瀬戸内海から新たに獲得した窒素固定ラン藻分離株の全ゲノム解読による代謝系の特徴づけという生理学的アプローチから研究を遂行している。
①分子生物学的手法を用いた窒素固定ラン藻の分布・多様性の解明 単細胞性窒素固定ラン藻の16S rRNA遺伝子を対象としたクローン解析の結果、UCYN-AとUCYN-Cに属する配列が得られた。特にUCYN-Cは、16S rRNA遺伝子に基づいて複数のクレード(Ribotype-1, 2, 3, 以下それぞれR1, R2, R3)に分かれることを本研究から発見した。また、リアルタイムPCRの結果、UCYN-Aは低無機態窒素濃度時に検出されたが、一方でUCYN-Cは低水温・高無機態窒素濃度時でも高濃度に検出された。これらの結果から、瀬戸内海においてUCYN-AおよびUCYN-Cに属する単細胞性窒素固定ラン藻が分布しており、系統ごとに異なった分布をすることが明らかとなった。 ②瀬戸内海から獲得した新規単細胞性窒素固定ラン藻YR-1株のゲノム解読 次世代シーケンサーMiSeqを用いてUCYN-Cに属するYR-1株のゲノム解読を行った。系統解析の結果、YR-1株はR1クレードと異なる枝に位置してR2クレードに属しており、YR-1株はR1クレードと系統的に異なる新規UCYN-C系統群であることが示された。また代謝系を推定した結果、R1クレードと比較してYR-1株のみが有する代謝系として、複数のトレハロース・スクロース生合成経路やTCA回路において酸化ストレス耐性を持つacnAを有していた。この結果から、YR-1株は、強光や塩濃度変化など多様なストレスに適応したゲノムを有していると推測された。
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