研究実績の概要 |
本年度は引き続き、遷移金属によって炭素-水素結合を触媒的に活性化し、生じた有機遷移金属種を極性不飽和化合物と反応させる ことで、不斉炭素-炭素結合形成に導くことを目的として研究を実施した。具体的には、所属研究室で以前に開発されたキラルヒドロ キシアミノホスフィン配位子の利用の展開を目指し、末端アルキンとニトロンを立体選択的に反応させることを目指した。これらの付 加環化を経る反応は衣笠らが40年以上前に見出しているが、不斉化はほとんど報告例がない。本研究は、系中で水酸基を含む独自の配 位子がニトロンとの間に水素結合を形成し、キラル環境下においてアルキニル銅種との反応を進行させることをねらいとしている。 (1)基質適用範囲 本反応は温和な条件下進行するため、様々な官能基を有する末端アルキンやニトロンを用いることができる。特に、脂肪族置換基の末端にエステルやフタルイミド、アセタールなどの構造を含んでいても、高エナンチオ選択的にβ-ラクタム類を合成することに成功した。さらに、末端アルキンとしてプロパルギルアミンやプロパルギルエーテル、無保護のプロパルギルアルコールを作用させると、β-ラクタム構造の隣接位に官能基を直接導入することができた。 (2)生成物の変換 窒素原子上にp-メトキシフェニル基を有するニトロンと1-ヘキシンを反応させると、cis、trans体ともに高い立体選択性を伴って対応する光学活性β-ラクタム誘導体を与えた。この混合物をCANによる酸化条件に伏すと、収率66%で3,4-ジアルキルアゼチジノンを得ることができた。これは抗生物質であるカルバペネム類の合成中間体であり、医薬品などの革新的合成法として発展することが期待される。
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