研究課題/領域番号 |
14J02513
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
西野 雄一郎 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 賃貸共同住宅 / 住環境形成 / 住み手主体 / 改変可能性 / 改修 / 制度 |
研究実績の概要 |
本研究では、他律的につくられたマス・ハウジングに対して住み手主体の住環境づくりを触発する仕組みを「改変可能性」とし、それを3つの要素【時間】、【空間】、【制度】に措定し、その有用性を検証することから住環境づくりにおける住み手主体の可能性や条件を明らかにする。
今年度は、1.改変可能性の制度面からの評価および2.改変可能性を空間面から評価し、制度・空間による住み手主体の住環境づくりの実態を把握するための調査を行った。
1.住み手主体の住環境づくりを促す制度に関する研究では、賃貸共同住宅の所有者と仲介業者へのヒアリング調査を実施し、契約・運営面から制度の考察を行った。日本建築学会において研究成果の口頭発表を行い、発表内容に基づく査読付論文が日本建築学会技術報告集vol.21,No.47に掲載された。この論文では、賃貸住宅における住み手の主体的な住環境づくりを可能にする契約と運営の特性を明らかにし、住み手の住環境づくりを触発・促進することに向けた賃貸システムを検討・提起した。さらには、これまで貸し手に不信の対象と捉えられ、原状回復義務などの制度によって管理されてきた住み手が住環境づくりに向けての恊働者となることで、事業性の向上につながるなど貸し手にとっての有意性・有用性が生成されることを示した。 2.住み手主体の住環境づくりを促す空間に関する研究では、制度・空間の条件が異なる複数の賃貸共同住宅において住戸を訪れての居住者ヒアリング調査および図面採集を実施し、空間状況(内装状態や汚れ具合など)と空間特性(間取りや水回り位置など)から改変可能性を考察するための実態把握を行った。加えて、住み手の住環境づくりによる住まいとその評価、住環境づくりへの評価、改変可能性への評価、住まいへの意識、住環境の評価を時系列に配慮しながら詳細に把握した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
賃貸共同住宅の居住者自らが住戸の改修を行なう住環境形成に関する一連の研究のうち、今年度は、事業主・居住者・次の入居者の三者にとって効果的で質の高い改修を誘導するための賃貸システムのあり様を提示し、改修可能賃貸住宅の普及に寄与する有用な論文(査読付き)を公表しており、建築計画分野で評価を得ている。いま一つの特筆点は、居住者の住環境形成への取組みの実態や賃貸システムに対する評価を把握するために、プライバシーの問題から極めて難しくなった戸別訪問による精緻な実測・インタビュー調査を28世帯もの住戸で行ない、居住者主体の住環境形成の特性を実証的に解明したことである。居住者は、規約を煩わしいものではなく、改修を触発し事業者との良好な関係をつくる機会と捉えていること、全住戸で活発で自律的な改修が行なわれ、機能重視・間取改変と意匠重視・仕上改変といった目的・内容や程度の異なる個性化が図られていること、それには、居住者の改修技術・嗜好と契約方法や住戸空間の改修の「余地」等の賃貸システムが影響すること等、住み手主体の住環境形成の実践過程の構造化を成し遂げ、居住者にとっての住環境形成の有用性や有意性を示す処まで到達しており、期待以上の研究の進展が認められる。来年度は、上記の内容にさらなる考察を加え、査読付き論文への投稿を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方法は、改変可能性を有する対象事例への戸別訪問調査を主とする。当初予定した研究計画は順調に進んでおり、来年度に予定していた研究調査の多くを今年度実施できた。そのため、改変可能性を空間面から評価する調査を当初より多く実施する予定である。予定していた調査対象事例に加え、追加調査を実施する事例との調整を既に進めている。最終的にこれまでの調査結果を比較検討し、【時間】【空間】【制度】の改変可能性による「住み手主体のリノベの促進実態」、「住空間の特徴」、「リノベ行為」を評価する。その上で、住み手主体のリノベの可能性や条件を明らかにする。 また、研究成果を調査対象である公共・民間の建物所有者にフィードバックするとともに、研究調査やアウトリーチ活動を通じて知り合った関係者に対して住み手主体の住環境づくりの可能性を模型や図面等を用いて提案することで、学術面に留まらず社会に還元していく。
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