研究課題/領域番号 |
14J02562
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
澤田 茉伊 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 歴史的文化遺産 / 古墳墳丘 / 修復保存 / 不飽和土質力学 / 斜面崩壊 / キャピラリーバリア / 水分保持特性 / 雨水浸透 |
研究実績の概要 |
申請者は,特に古墳を対象に,地盤工学に基づいて,本質的価値を損なうことなく,歴史的地盤構造物を修復・保存する技術的手法を研究している。古墳の損傷は,①墳丘の物理的な損傷に属するもの(地すべり,削剥),②墳丘内部の水分移動に関するもの(石室への雨水・地下水の侵入),③石室内部の温湿度環境に起因するもの(壁画の剥落,かびの繁茂),の三種類に分類される。これらに対処するため,以下の3つの課題に取り組んでいるが,各課題の進捗状況について報告する。
課題1 墳丘の強度・安定性の確保:降雨による墳丘斜面の崩壊メカニズムの解明と安定性評価について検討した。実際に降雨で崩壊した墳丘を例にとり,一連の評価の中でも特に,安定性に寄与するすべり面の強度評価法を検討した。検討した評価法は,ほぼ非破壊の針貫入試験を用いたものと,逆算法を用いたものと二種類あるが,いずれも崩壊を説明する解析結果を得た。 課題2 墳丘内部の水分移動の制御:細粒土と粗粒土の二層地盤で,両者の不飽和浸透特性の差に起因して発現するキャピラリーバリア(毛管遮水層)を墳丘の雨水浸透抑制技術として利用することを目的に,模型実験と数値解析でバリアのメカニズムを検討した。実験ではバリアの発現・破過を観察し,またバリアの影響因子(地盤の傾斜,層厚,降雨強度)について調べ,既往の研究と整合した期待通りの結果を得た。 課題3 石室内部の温湿度環境の制御:装飾壁画を結露,虫害,かびから守るためには,墳丘内の熱および水分移動を評価し,石室の温湿度環境を安定に保つ技術が必要であるが,土壌の熱伝導に関する研究は,地盤工学分野では既往の研究が少ない。そこで,土壌物理や農業土木等の分野に範囲を広げて文献調査を行い,既存の熱物性値の測定方法と熱物性値の影響因子について学び,具体的な実験計画を練った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は3つの課題のうちの1と2に相当する墳丘の強度評価と水分移動に関わる課題に集中的に取り組み,概ね期待通りに進展したと考えられる。 課題1の降雨時の墳丘斜面の安定性評価に関する研究は,前年度から取り組んでいるが,検討で必要となる墳丘の強度や浸透特性の評価の部分に問題が多かった。特に,本課題に不可欠な土の水分保持特性を調べる試験装置を昨年度までに開発したが,期待通りに機能していなかったため,今年度の前半はこれの改造と試験法の改良に取り組み,実用に漕ぎつけた。段階的に問題を解決して完成度を高め,最終的には納得できる成果を得ることができたと考える。成果は,学会誌で1件,国内学会で2件,国際学会で2件発表済である。 また,課題2の墳丘の遮水を目的としたキャピラリーバリアに関する研究は,模型実験と数値解析からなるうち,実験部分で期待通りの結果を得ることができた。成果は,来年度の国内学会で2件発表予定である。なお,解析部分については,詳細にバリアのメカニズムを解明することを目的に,模型実験の再現に取り組んでいる。大枠は完成しているが,パラメータの調整と結果の分析がまだ十分ではなく成果の発表段階には至っていないため,来年度の課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
各課題の今後の推進方策は以下の通りである。
課題1 墳丘の強度・安定性の確保:降雨時の墳丘斜面の安定性評価については,今年度までに概ね納得できる成果を得られているため,この成果を学会誌に発表する準備を進めている。これまでにもいくつかの論文を発表しているが,これらの過程を経て得られた最新の成果をまとめる。また,本課題で検討した二種類のすべり面の強度評価法は適用事例が一件であるため,他の事例でも評価法の適用性を検討する予定である。 課題2 墳丘内部の水分移動の制御:今年度実施したキャピラリーバリアの模型実験を数値解析で再現し,実験と解析の両面からバリアのメカニズムを考察する予定である。さらに,解析では実際にキャピラリーバリアを利用した墳丘保護施設を対象に,構造物レベルでバリアの効果の検証を行う。これに関する成果の発表については,学会誌や国際学会などの査読付き論文に投稿することを目標とする。 課題3 石室内部の温湿度環境の制御:土中の熱と水の移動を評価するための実験を予定している。実験装置は,熱源,試料容器,測定機器(温度センサ,土壌水分計,台はかり)からなり,土柱内の一次元的な熱伝導と水分移動を観察するものである。また,一次元熱伝導方程式を基礎に,数値解析で実験を再現し,水分移動に伴う熱移動の影響を考察する予定である。
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