研究課題
申請者は、神経膠芽腫由来エクソソーム(U251exo)が正常細胞であるヒトアストロサイ(Ast)に比べて、由来がん細胞に効率よく導入されることをこれまでに示した。がん細胞由来エクソソーム については、受容細胞へ膜融合する際の分子メカニズムの詳細は不明であり、エクソソームの DDS 医薬品応用に向けて、その細胞指向性および膜融合に寄与する因子を分子レベルで解明する必要がある。そこでまず、本現象がU251exo自身の性質によるものかどうか検証したところ、Ast由来エクソソーム(Astexo)の取り込みはがん/正常細胞共に僅かであった。つまり、U251exoのがん細胞指向性はがん細胞の非特異的な取り込みではなく、本エクソソームの特徴的な構成因子の認識によるものと考えられた。次にU251exoの指向性を生み出す因子を同定するため、酵素処理によりエクソソームの表面タンパク質リガンドを脱落させ取り込みの変化を評価したが、がん細胞への高い集積が依然観察され、表面タンパク質リガンドは本現象への寄与が低いことが示唆された。一方で、がん/正常細胞由来の細胞外ベシクルの脂質組成が各々異なることをこれまでの薄層クロマトグラフィーを用いた実験で示した。本結果の精査のため脂質分析の条件を種々検討し再試したところ、がん細胞由来の細胞外ベシクルでphosphatidylethanolamineの組成比が高く、sphingomyelinの割合が低いことがわかった。本成果は、U251exoの特徴的な脂質組成を利用し、簡便に調製可能ながん選択的ドラッグデリバリーシステムを開発する上で極めて重要な知見である。本成果の一部は、Biochemical and Biophysical Research Communications紙に受理掲載された。
1: 当初の計画以上に進展している
申請者が着目している“がん細胞由来エクソソームが由来がん細胞へ効率よく導入される”現象における、導入機序についてはこれまでほとんど検討がなされていないため、本指向性に関与する生体成分(タンパク質・糖質・脂質)を分子レベルで同定するには、系統的解析が必要であった。解析の結果、主要生体分子のうち少なくとも表面タンパク質リガンドの寄与は低く、特徴的な脂質を有したエクソソームであることまでを明らかにした。以上の系統的検討結果は、Biochemical and Biophysical Research Communications誌に速報として掲載されており、当初計画をしのぐペースで解析研究が進展している。
エクソソーム表面の糖鎖に注目し、endoglycosidase処置などによりU251exoの糖タンパク質や糖脂質とがん細胞指向性との関連性について検証する。またU251exoのがん細胞指向性を規定する因子がその特徴的な脂質組成であるかを調べるために、本エクソソームの全脂質を抽出しそれらで再構成したリポソームを作製し、がん細胞への取り込みを評価する。作製したリポソームががん細胞選択的に取り込まれることが確認され次第、siRNAなどの各種薬剤を導入し、抗がん活性やがん細胞内への選択的な薬物送達能を株化細胞およびモデル動物を用いて評価し、作製したリポソームの薬物キャリアとしての有用性を確認する。リポソームのがん細胞選択性が乏しい場合、U251exoの表面膜電荷、膜流動性をゼータ電位、Laurdan 試薬処置により求め、膜物性を評価し、得られた情報をリポソーム作製に反映する。
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Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 456 ページ: 768-773
10.1016/j.bbrc.2014.12.015