申請者の研究は、難民問題の最前線に立ち続けてきた現代中東の状況を踏まえた上で、伝統的イスラーム制度の最活発化の中で台頭するイスラーム的NGOの全体像を明らかにすることを目的としている。とりわけ、1970年代から顕在化したイスラーム復興の流れを汲んで登場してきた、イスラーム的NGOの展開とその実態・理念双方の実態についてフィールドワークを十分に行うことで明らかにする。特に、イスラーム的系NGOの活動が中東で最も活発なヨルダンを中心に、NGOの活動が出現と展開に関連する政治的社会的要因の構造を詳らかにし、熱帯乾燥域に属す中東地域の地域的特性と経験蓄積の中で培われた「即応的対応力(prompt responsiveness)」(申請者造語)がオルタナティブな難民支援を担っている実態を論じる。そのため、本年はこれまで行ってきたフィールドワークのデータを分析し、また地図及び地理データの空間情報分析を行い、博士論文の執筆を行った。5月には、京都(同志社大学)で開催された日本中東学会の年次大会において、「シリア難民流入と社会生態空間の拡張:ヨルダン北部都市マフラックの事例から」とのタイトルで研究報告を行った。同月後半には秋田(カレッジプラザ)で開催された日本沙漠学会において、「沙漠に生成する社会生態空間:ヨルダン北部都市マフラックの事例から」とのタイトルでポスター発表を行った。本研究は中東地域が属する熱帯乾燥域の生態的論理を踏まえ、地域社会及び人々の持続的な生存基盤構築を検討する必要がある。博士論文執筆においては、本視座の元で学際的な分野である難民というイシューに対して、文理融合からの切り口を持って臨むことが出来たと考える。これらを踏まえ、昨年11月に「現代中東における難民問題とイスラーム的NGO-難民ホスト国ヨルダンの研究」というタイトルで博士論文を提出した。
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