研究課題/領域番号 |
14J02680
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
今井 宏昌 九州大学, 比較社会文化研究院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | ドイツ現代史 / 暴力 / 義勇軍 / ヴァイマル共和国 / 戦間期 / 反ボリシェヴィズム / エゴ・ドキュメント / 経験史 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、ヨーロッパや日本国内の古書店、大学図書館のデータベースを利用し、研究テーマに関連する文献の調査・収集をおこなったほか、それらの文献とこれまで収集してきた文書館史料とを照合する形で、ヴァイマル初期のドイツで展開された義勇軍運動と反ボリシェヴィズム・反共和国との関係について明らかにした。 具体的な成果としては、1918年末から1919年前半まで、反ボリシェヴィズムの態度が共和派から帝政派に至るまでの幅広い層を含んだ最大公約数的な一致点として浮上し、義勇軍運動を支える大きなバックグラウンドとして機能していたこと、しかしながら、1919年5月にミュンヘンにおけるレーテ(評議会)政府の打倒とバルト地域における赤軍の掃討が成功し、また6月にヴェルサイユ条約の内容が明るみに出ると、反ボリシェヴィズムによる統合は破綻し、義勇軍運動も共和派的な方向と反共和派的な方向へと分裂していったことを明らかにした。 またドイツの主要な文書館・図書館にすら所蔵されない義勇軍戦士G・ロスバッハの1919年刊行の闘争録(Gerhard Rossbach, Sturmabteilung Rossbach als Grenzschutz in Westpreussen, Kolberg 1919)が九州大学伊都図書館に所蔵されたことで、義勇軍運動内部における反共和派的潮流に関するさらなる分析が可能となった。これにより、1919年3月の結成当初は共和国への忠誠を誓っていたロスバッハ突撃大隊が、ドイツ政府による東部国境地域での闘争中止命令を経て、次第に共和国への不信感と憎悪を募らせていく過程を跡づけることに成功した。従来の研究がカップ一揆以降の回想録に準拠していたことを考えると、それ以前に刊行された闘争録でこのような態度がはっきりと示されていることは、新たな発見であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、戦間期ドイツにもたらされたとされる「政治の野蛮化」(G・L・モッセ)という現象を、あくまで個々の人物・集団の具体的経験に即しながら、広くロシア革命からスペイン内戦へと至る戦間期ヨーロッパ史の文脈において捉え直すことにある。具体的には、ヴァイマル初期ドイツの義勇軍運動、特に東欧の旧独露両帝国領から義勇軍に参加した人びとのバイオグラフィを手がかりとして、彼らと独露両地域の革命運動・反革命運動との関係や、その内戦経験にもとづく思想的な遍歴、そして反ボリシェヴィズム運動から反ファシズム運動へと至る経路が主な検討対象となる 平成26年度は、博士課程・学振DC2の時代に積み重ねた研究成果を基礎としながら、ドイツ革命期における義勇軍運動の形成と展開において、ボリシェヴィズムに対する恐怖や憎悪がどのような機能を担ったのか、そしてそれがどのような形でヴァイマル共和国への攻撃へとつながったのかを、義勇軍戦士のエゴ・ドキュメントにもとづきながら分析した。そこでは、従来あまり重視されてこなかった義勇軍運動の分裂の側面とともに、そうした分裂が義勇軍以前の個人的・集団的経験によって大きく規定されていることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
M・ケロッグ『ナチズムのロシア的ルーツ』(Michael Kellogg, The Russian Roots of Nazism. White Russians and the Making of National Socialism 1917-1945, New York 2005)は1919年後半にバルト地域の義勇軍がロシア白軍へと合流する中で、「反ボリシェヴィキの魂」が育まれたことを指摘しているが、両軍の将兵らの経験がどのようなレベルで混交したのかは、今後明らかにすべき重要な課題である。この点については、ロスバッハやロシア白軍出身の亡命者の回想録のほか、九州大学附属図書館文系合同図書室に所蔵される官憲報告のマイクロ史料(Lageberichte (1920-1929) und Meldungen (1929-1933), München 1979)を読み進めている。 また、ベルリンやミュンヘンを中心に点在するドイツ各地の文書館・図書館に所蔵される義勇軍戦士やロシア白軍の将軍の個人史料を調査・収集し、それらの分析を通じて回想録の証言を相対化するとともに、ヴァイマル初期ドイツに限らない、より広い時間的・地域的な視座から彼らの経験を再検討する作業につとめる予定である。
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