研究課題/領域番号 |
14J02680
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
今井 宏昌 九州大学, 比較社会文化研究院, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
キーワード | ドイツ現代史 / 暴力 / 義勇軍 / ヴァイマル共和国 / 戦間期 / ナチズム / エゴ・ドキュメント / 経験史 |
研究実績の概要 |
平成27年度も前年度に引き続き、ヨーロッパや日本国内の古書店、大学図書館のデータベースを利用し、研究テーマに関連する文献の調査・収集をおこなったほか、平成28年2月17日から3月3日にかけて、ベルリンを拠点に文書館史料の調査・収集をおこなった。 具体的な成果としては、まず博士論文の提出と受理が挙げられる。特に博士論文の序章においては、本研究が重視する「経験史[Erfahrungsgeschichte]」の分析視角の整理と、それを駆使した歴史叙述の確立が達成された。 また次につながる新たな展開としては、「反ボリシェヴィズム」ないし「反共和国」を掲げる義勇軍出身者と、ヒトラー率いるナチ党中央との緊張関係の解明が進んだ。特にH・O・ハウエンシュタインは、ミュンヘン一揆の挫折後に街頭一揆路線から合法路線へと転向したヒトラー率いる党中央と対立し、1926年11月に「ドイツ独立国民社会党[Unabhaengige Nationalsozialistische Partei Deutschlands]」を立ち上げた。この独自路線はその後、ハウエンシュタインらがナチ党に出戻ったのちも、戦友A・L・シュラーゲター顕彰のための団体「シュラーゲター朋友同盟[Bund der Freunde Schlageters]」という形で継続することになる。 さらに今回のベルリンでの史料調査においては、プロイセン文化財団枢密文書館に所蔵されるシュラーゲター朋友同盟関係文書を閲覧した結果、そうしたヒトラーとの緊張関係が彼らの義勇軍経験、特にシュラーゲターとの戦友意識にもとづく可能性が強まってきた。この点については、平成28年度中に論文化する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、戦間期ドイツにもたらされたとされる「政治の野蛮化」(G・L・モッセ)という現象を、あくまで個々の人物・集団の具体的経験に即しながら、広くロシア革命からスペイン内戦へと至る戦間期ヨーロッパ史の文脈において捉え直すことにある。具体的には、ヴァイマル初期ドイツの義勇軍運動、特に東欧の旧独露両帝国領から義勇軍に参加した人びとのバイオグラフィを手がかりとして、彼らと独露両地域の革命運動・反革命運動との関係や、その内戦経験にもとづく思想的な遍歴、そして反ボリシェヴィズム運動から反ファシズム運動へと至る経路が主な検討対象となる。 平成27年度は、東京大学総合文化研究科に提出し受理された博士論文「第一次世界大戦後ドイツにおける義勇軍経験の史的分析」において、本研究の主柱となる「経験史」の分析視角と、それにもとづく歴史叙述を確立できたほか、義勇軍経験とナチズムとの緊張関係について、新史料にもとづく研究前進の可能性を拓くことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
現時点では、平成28年度中に本研究全体をまとまった形で公刊することは難しいものの、平成27・28年度におこなった調査により、以下の2つのテーマを検討するうえでの史料的基盤が整った。 ①G・ロスバッハやH・O・ハウエンシュタインに代表される義勇軍出身のナチとヒトラー率いる党中央との緊張関係の経験史的解明。 ②A・シュテンボック=フェルモアに代表される義勇軍からコミュニストへの「転向」がヴァイマル末期の政治状況においてもつ意味の経験史的解明。 次年度は、過去2年間に収集した史料の読解を通じ、以上の2つのテーマに関する研究論文を執筆・投稿する予定である。
|