研究課題/領域番号 |
14J02696
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上野 泰治 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 計算機モデル / 文処理 / 統語処理 / 意味 / 経頭蓋磁気刺激法 / ニューラルネットワーク |
研究実績の概要 |
今年度の研究目的は(1) 計算機モデルによる言語機能のシミュレートと、(2) 計算機モデルから生み出される仮説を検証する神経科学研究、さらに、(3)計算機モデル手法を、国内の心理学者へと広めることであった。以下、論文受諾まで公開を控える必要のある(2)を除いて概要を述べる。 (1) 計算機モデル研究として、単語処理を行っていた計算機モデルを、文処理へと拡張した。このため、モデルの言語獲得に必要な学習材料を言語コーパス「KOTONOHA「現代日本語書き言葉均衡コーパス」少納言」から取り出した。このコーパスは、人間の言語獲得に必要な情報量としては多すぎるため、小学校・中学校の国語のテキスト全てに検索対象を限定した。その後、常用漢字を一つでも含む文章全てを検索し、抽出した。次に、抽出された文章データを単語ごとに切り分け、品詞情報などを付与する形態素解析を行った。この解析後の文章データをベクトルパタン(単語ごとのローカリスト表現)へと変更し、モデルは文章課題について学習を行った。課題は、(a) 文章理解、(b) 文章産出、(c) 文章反復、(d) 統語理解であった、これが、計算機モデルについての初年度の概要である。 (3) 次に、計算機モデル技術の共有として国内の学生・ポスドクを中心に、以下の心理現象についての研究指導を行った。それは、(a) 顔の記憶を保持段階中に言語化すると、その記憶成績が低くなる現象のモデル研究、(b) 日本語の漢字を読む、という機能の獲得のために必要な認知機能の理解のためのモデル研究、(c) 漢字の部首がどのように意味理解に貢献し、言語機能獲得に役立つのかを解明するモデル研究、(d) 未来の特定の時期に起こるであろう出来事を想像する機能において意味記憶がどのような役割を果たすのかを理解するためのモデル研究、以上の4つであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず、計算機モデルは、申請書に記載の目的と全く同一の内容を達成することができた。このため、この点については、当初の計画の通りであるといえる。 次に、神経線維結合画像研究は、申請者が本研究員として採用されるすぐ直前に全く同一の研究結果がドイツの研究者によって公刊された経緯がある。よって、神経線維結合画像研究そのものの実施は貴重な研究費の浪費となる可能性があった。このため、モデルから生まれる仮説を検証する神経科学研究(申請書記載済み)を実施し、論文執筆が可能な神経科学データを取得した。よって、この点についても、概ね当初の計画の通りと言える。 最後に大きな発展として、計算機モデル技術を国内の若手研究者・院生に伝え、計算機モデル研究の指導を行った。これについては、4点の論文執筆・投稿へと発展しているため当初の計画を大幅に超える達成が得られたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、研究計画の変更の必要性はないと考えられる。また、研究を遂行する上での問題点も想定されない。 計算機モデルについては、初年度が研究計画の通りに遂行されたため、次年度も同じように推進していく予定である。まず、これまでモデルが学習した4つの文処理課題を、単一モデルで学習することを試みる。またその際、神経科学からわかっている制約(脳のどの部位とどの部位が結合しているかという解剖学的情報)をモデルの構造に取り入れていく。この場合、モデルはかなり大きな計算資源を必要とするが、特別研究員奨励費にて高スペックPCを来年度も購入することで、可能になると期待される。 初年度に実施した神経科学研究については、今年度も引き続きデータを追加し、論文を執筆する予定である。最後に、国内研究者に計算機モデル技術をこれまで共有し、研究を促して来たが、来年度はこれらを全て論文として公刊することを目的とする。また、チュートリアルを積極的に開くことで、全国の研究者が技術を共有できるようにすることを試みる。
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