研究実績の概要 |
今年度の研究実施状況は、以下の4点にまとめられる。一つは、文処理の解剖制約計算機モデルの構築であった。昨年度から発展させ、今年度は単一のネットワークを用いて、全課題を同時に学習させた。同時に、そのネットワークの構造に、脳の解剖学的情報(脳のどの部位とどの部位が接続し合っているかに関する情報)を制約として取り入れ、学習させることを行った。 次は、モデルをさらに発展させ、神経伝達物質の働きなども取り入れた、神経科学制約計算機モデルを構築した。これまで「脳のどの部位とどの部位が接続し合っているか」というマクロレベルでの神経科学情報を含んでいたモデルに対し、「ノルアドレナリン・GABA・グルタミンなどの神経伝達物質の働き」といったミクロレベルでの神経科学情報を含むモデルへと発展させた。 次に、前年度にデータ取得を終えた脳刺激研究の結果を、計算機モデルで再現することを試みた。具体的には、解剖制約計算機モデルの同一個所を損傷させることにより、脳刺激結果を制約モデルで再現することを試みた。 最後に、最近の心理学における再現性問題に対処するための方法論的論文の執筆・発表であった。具体的には、トップジャーナルに掲載された心理学結果ですら、その半数近くが他の研究者によって再現できないという問題がある(Open Science Collaboration, 2015, Science)。この問題に対し、最近では、「複数の実験を行って、その結果をメタ分析で統合し報告する」という解決案が出され、広く受け入れられている。しかし、この手法は、用い方を誤ると、逆に誤った結果を招いてしまうことを、計算機シミュレーション及びメタレビューによって示した。これらの点を達成できたことを考慮すると、進捗状況としては期待以上の進展であったといえる。
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