研究課題/領域番号 |
14J02703
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
杉目 康広 北海道大学, 環境科学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | シロアリ / 兵隊分化 / 幼若ホルモン / 形態形成因子 / インスリン / 大顎形成 / 生態発生学 / 社会性昆虫 |
研究実績の概要 |
昆虫の大顎は摂食に用いられる付属肢だが,シロアリの兵隊は外敵へ攻撃するための武器として利用している.兵隊の大顎形成では,全体が一様に成長するのではなく,尖端部を特に顕著に伸長させる.そこで本研究では,兵隊特異的な形態形成において,体に位置情報を与える遺伝子群 (ツールキット遺伝子) が関与することを想定し,大顎形成の分子発生基盤の解明を試みた. まず,擬職蟻 (ワーカー) に幼若ホルモン類似体 (JHA) を投与し,兵隊分化を誘導した.リアルタイムPCR によってツールキット遺伝子の発現定量をした結果,多くの昆虫で付属肢形成への関与が示唆されている dachshund (dac) が兵隊分化過程で大顎特異的に発現上昇することが明らかとなった.そこで,RNAi 法による dac の発現阻害を行い,兵隊の大顎形成に対する効果を精査した.その結果,大顎のサイズが顕著に小さくなったことから,dac は兵隊の大顎伸長に寄与することが強く示唆された.dac は胚発生期の大顎形成で機能することが他の昆虫で報告されているが,後胚発生で機能するという報告例は無い.以上の結果より,兵隊特異的な形態形成は,胚発生で利用した遺伝子を転用している可能性が示唆された. また,動物の細胞増殖を促進し,糞虫のツノ形成など昆虫の誇張された表現型に関与するインスリン伝達経路 (IIS) の受容体 (InR) とツールキット遺伝子の発現における上位下位関係を調べた. InR と dac をそれぞれノックダウンし,両遺伝子の発現を解析したところ,InR をノックダウンすると dac の発現も低下したが,dac のノックダウンでは InR の発現低下は認められなかった.以上の結果から,IIS は dac の上流に存在し,大顎での発現を制御していることが考察された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時に挙げた3つの研究計画のうちの一つを概ね遂行することができた.この研究成果を海外の研究交流会で発表する事ができた.
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今後の研究の推進方策 |
昆虫の主要ホルモンであるエクダイソンは JH と拮抗した作用を持つ.本年度は JH やエクダイソンといったホルモンの動態と関連遺伝子の発現解析を行う.既にエクダイソンを高速液体クロマトグラフ質量分析 (LCMS) によって測定することを試みており,活性型エクダイソンである 20-hydroxy ecdysone (20E) の標品を試験的に測定し,LCMS で 20E の検出が可能であることを確認した.今後はシロアリの体液抽出物を用いて,兵隊分化過程における 20E の血中動態を明らかにする.さらにエクダイソン経路関連遺伝子の発現動態についてもリアルタイム定量 PCR で解析する.上記の実験により,兵隊分化過程における 20E の血中動態と,受容体など下流経路の遺伝子発現との対応が明らかになる.本計画によって,兵隊分化過程における形態形成のキューになる時期を特定できることが期待される. 前年度の研究により,形態形成因子は JH とインスリンの下流で発現を制御されていることが示唆されたが,ホルモンの下流では形態形成因子の様に位置情報を与える遺伝子だけではなく,実際の細胞増殖で機能的に働く遺伝子の発現も制御されていることが予想される.また,ホルモンと形態形成因子との間にも未だギャップが存在すると考えられる.そこで今年度はさらに,兵隊分化過程における網羅的なトランスクリプトームを明らかにし,候補遺伝子の発現解析だけでは捉えきれなかった遺伝子を発見する.ボディパーツは頭部と胸腹部に分け,兵隊分化過程と擬職蟻脱皮とを比較し,兵隊分化の過程で有意に発現が上昇する遺伝子を明らかにする.特徴的な発現パタンを示す遺伝子に対しては追加の解析を行う.具体的にはリアルタイム定量 PCR による高発現する時期と部位の特定を行い,RNAi による機能解析を行う.
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