新規性の高い細菌を得るため、接種源となる環境試料、培養温度、加える有機物の3つの要素に着目し研究を行った。寒帯~亜熱帯域の湖沼堆積物、海洋堆積物、温泉微生物マットなどの多様な水圏環境試料を用いた。培養温度の設定を工夫し、一時的な高温にさらすなどの処理も行った。培養には種々の有機酸または生物毒性の高い石油系炭化水素を添加した。細菌が増殖した培養について、純化作業を繰り返すことにより新規細菌株を得た。細菌株の系統学的・生理生化学的性質の検討を行い、その結果に基づいて新規分類群を提唱した。また全ゲノム配列解析や、細胞形態が独特なものに関しては超微細構造解析も行った。 得られた多くの細菌株のなかから、既知の細菌との相違が特に大きい9つの細菌株を選別し、様々な特性を検討した。これまでにうち5株について新種以上のレベルで新規分類群を提唱した。既知の細菌と比較することにより、分類学的混乱が生じていた既存種の再分類や、生化学的分類指標に関する新たな知見を得ることなどができた。さらに、亜寒帯域の湖沼堆積物より得られた細菌についてはこれを唯一の種とする新たな綱・目・科・属を提唱するに至った。この新規細菌は通性嫌気性の中度好熱性細菌であり、細胞形態は球状-桿状-糸状と多様で、細胞の長さは 10-100μm と様々に変化する特徴があった。走査型電子顕微鏡解析により、細胞の表面は毛のような構造で密に覆われていることがわかった。ゲノムDNAのG+C含量は約70%と細菌全体で見ても高い数値を示した。透過型電子顕微鏡解析により、この細菌株は芽胞形成能を有することが示された。全ゲノム解析からは、既知の芽胞形成性細菌とは異なる形成機構の存在が示唆された。論文化の完了した細菌株は国内外の菌株保存機関に寄託・公開し、研究者は誰でも利用可能な状態である。
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