研究課題/領域番号 |
14J02800
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
田上 瑠美 愛媛大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 生活関連化学物質 / 医薬品類 / 魚類 / 水生生物 / 体内動態 / リスク評価 |
研究実績の概要 |
物理化学的、生理学的に特性の大きく異なる20種の生活関連化学物質(Pharmaceuticals and Personal Care Products: PPCPs)に対して、潜在リスクの初期スクリーニング法として提案されているFish Plasma Model (FPM)の実環境における妥当性を検証した結果、化学物質の脂溶性に基づいて算出された既存の環境水-魚血漿間分配モデル式による曝露評価は解熱鎮痛消炎剤など一部のPPCPsに対して過小評価となることを明らかにした。化学物質の疎水性/脂溶性に基づいて生物への移行/残留性が推定されてきた中、脂溶性だけでは説明できない特異な生体残留性を発見した本研究は、従来の化学物質環境影響評価指針における問題点を提起した。 さらに、体内挙動を体系的に究明した結果、向精神剤など一部のPPCPsに対して、血漿-標的組織間の分配に20倍以上の個体差を発見した。これは野生魚に対して血液だけでなく標的組織の濃度測定が重要であることを示した新規性の高い先導的成果である。 広く入手可能なヒト薬効血中濃度あるいは既報の毒性値と本研究で測定した野生魚の血漿PPCP濃度を比較することにより曝露リスクを評価した。殺菌剤のトリクロサンは、マウスで筋肉収縮機能の攪乱が報告された毒性値を超過する濃度で野生魚から検出された。また、中枢神経系に作用する向精神剤のリスクが相対的に高値を示した。それらの毒性発現メカニズムは類似していることに加え、一部の向精神剤については化学物質の取り込みや組織移行に関与するトランスポーターとの相互作用が報告されている。しかし、現在までPPCPsの複合影響(物質間の相互作用)を考慮した曝露リスク評価手法は確立されていないため、今後の重要な課題と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度より1年間、野生の魚類や鳥類を対象にPPCPsの生物移行・体内分布解析とリスク評価に取り組み、自ら考え行動し試行錯誤を繰り返しながら新たな分析法を立ち上げ、脂溶性だけでは説明できない特異な生体残留性と組織移行性を発見するなど斬新な研究成果をあげた。特に、社会的関心が集まっている向精神剤に対して、血漿-標的組織間の分配に20倍以上の個体差を発見した。これは野生魚に対して血液だけでなく標的組織の濃度測定が重要であることを示した新規性の高い先導的成果であることから、国際シンポジウム等における発表で国内外の研究者の注目を集めた。 上記研究内容は、自身が化学分析、データ解析、成果のまとめの中心的役割を担い、その成果を複数の国内および国際学会で発表した。本年度は、共著を含め2編の学術論文が国際学術誌に掲載され、1報は投稿準備中である。 以上の理由から、研究計画は当初の予定通り遂行されており、計画以上の研究の進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度(採用第2年度目)の研究計画について、申請当初の予定では「鳥類における極性PPCPs汚染実態解明と体内残留性の解析」を次年度実施することにしていたが、初年度の研究で、PPCPsによる野生鳥類の汚染レベルは低値であること、鳥類への特異的な生物濃縮性は認められないこと(鳥類/餌生物濃度比と餌生物/環境水濃度比は同程度であること)が明らかとなったため、次年度は、PPCPsの特異な生体残留性と曝露リスクが懸念された魚類を対象生物とし研究を展開する。野生魚で確認された脂溶性だけでは説明できないPPCPsの特異な移行/残留性と血漿-標的組織間分配における20倍以上の個体差について、in vivo 試験を用いた検証を試みる。野生魚類に対するリスクが相対的に高値を示した向精神剤(中枢神経系に作用する医薬品)を主な対象物質とする。試験魚を下水処理水に曝露し、向精神剤の各種動態パラメータ(血漿濃縮係数、取込速度定数、排出速度定数、組織別半減期、定常状態における血漿-標的組織間の分配係数)を算出し、野生魚と比較解析する。 また「行動異常をエンドポイントとした新しい生態リスク評価手法」の習得と試験実施のために、平成27年6月から平成28年3月までの9ヶ月間、英国Brunel UniversityのJohn Sumpter博士の研究室に留学する。本試験法では、摂食、群泳、捕食者回避、求愛など魚の生存/繁殖に重要な行動への影響を生態毒性値として数値化する。従来の試験法に比べてより低い濃度で影響を検出することが可能であること、またAdverse Outcome Pathwayの概念「化学物質と標的間相互作用~個体レベルでの毒性発現過程を関連付ける考え方」に相応しく、今後の発展が期待される評価手法である。渡英は、本研究課題におけるリスク評価をより精緻に展開するために必要である。
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