研究実績の概要 |
今年度は、これまでの研究においてPharmaceuticals and Personal Care Products (PPCPs)の特異な生体残留性と曝露リスクが懸念された魚類を対象生物とし研究を進めた。平成27年6月~平成28年3月までの9ヶ月間、英国 Brunel University, Environment, Health & Societies 研究所に留学し「PPCPsの水生生物移行~影響発現に至るまでの一連の流れ」について体系的な整理と数値化に取り組んだ。また、モルヒネ、ヘロイン、コデインに代表されるオピオイド系鎮痛薬はがん性痛の治療に用いられる一方で、それらの非合法的な不正使用が深刻な社会問題となっている。そこで、オピオイド系鎮痛薬のTramadolを対象物質とし、Fathead minnows (n = 96)に21日間流水式で曝露し、行動異常をエンドポイントとした新しい評価手法を用いてTramadolの生態影響を見積もった。また、試験魚の血漿と脳試料を化学分析に供試し、水-魚血漿間および血液-作用組織間におけるTramadolの分配について解析した。 その結果、[1] 水-魚血漿間のTramadol分配に従来の予測モデルが適用可能であること、[2] ヒトとは異なる代謝能を示すこと、[3] SSRIsと同様にTramadolは魚に対して抗不安作用を与えること等、当初の予想を上回る発見があった。魚の行動への影響を生態毒性値として数値化する試験法は標準化されておらず、試験条件、エンドポイントの決定とその定量法、ベースラインの低減・安定化など検討すべき課題が山積している中、本研究では、[1] 曝露前後での比較および[2] Positive controlとの比較を初めて試み、それらのアプローチ法が有益であることを示す先導的成果が得られた。
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