研究課題/領域番号 |
14J02802
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
稲角 暢 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 牧畜民 / 家畜 / 放牧管理 / 定住化 / 自律的遊動 / GPS首輪 / ケニア / ポコット |
研究実績の概要 |
本研究は、ケニア北西部の牧畜民東ポコットの地域を対象とし、町の周辺に定住化した牧畜民と、町から離れた地域で生業としての遊牧を持続している牧畜民のあいだの、放牧管理を軸とした相補的な関係を描き出す。また、町から離れた地域の牧畜民の家畜管理技術と、社会変化に対する適応戦略を解明することで、生業としての遊牧が今後も持続していくための要素を抽出し、その発展の可能性を示す。具体的な調査としては、1)町の周辺に定住したポコットの世帯と町から離れた地域のポコットの世帯の相補的な関係を示す事例の収集、2)町から離れた地域のポコットの放牧形態と牧夫の経験知の把握、3)市場経済・開発援助の流入に対する町から離れた地域のポコットの適応戦略の解明、の3つに分けて調査計画を立てた。2014年度には、6月と1~3月に計82日間の渡航期間を設け、主に1)についての調査を遂行した。 調査地ケニア共和国バリンゴ県では、2013年度後半に起こった干ばつが長らく続き、2015年4月上旬現在までほとんど雨が降っていない。また、ウシの放牧地をめぐって隣接する牧畜民との抗争が激化し、家畜の強奪や集落の焼き討ちなども生じていた。調査者は2014年度の2回の渡航期間中に、ウシ所有ホームステッドに対してウシ群の構成と牧夫の構成、そして干ばつ期間中のウシ群の滞在地を明らかにする調査をおこなった。これにより、ウシ群が高い移動性を必要とする時期には、ウシ群の管理が親族内で処理されるだけでなく、古い友人関係や雇用関係が通常の時期以上に活用されていることが明らかになった。 また、国内で調査をおこなった学部卒業論文の成果を書籍の1章としてまとめ、出版することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度には、調査項目1)「町の周辺に定住したポコットの世帯と町から離れた地域のポコットの世帯の相補的な関係を示す事例の収集」に関して、2011~2013年度の調査では見られなかった貴重なデータが収集できた。この調査で、干ばつが進行していたおよそ1年半の期間におけるウシ群と牧夫の動向が明らかになったのだが、ここで注目されるのは、あるホームステッドのウシ群を見守っている牧夫が、そのホームステッドに属するものであるとは限らない点や、さまざまなホームステッドからやってきたウシ群が牧夫同士の関係性にもとづき、放牧キャンプで合流していた点である。干ばつや隣接する牧畜民との抗争といった深刻な事態が発生しているときにも、人びとが「定住ポコット」と「遊牧ポコット」という性質の違いを乗り越えて、柔軟に協働体制を変容させている事例が数多く見受けられた。通常の年には、ウシ群の管理は親族内から派遣された牧夫に任されるのが一般的である。しかし、この2014年度には、ウシ群キャンプが長距離を頻繁に移動する必要があり、遠隔地に質の高い労働力を派遣しなければならなかった。それゆえ、古い友人関係や雇用関係が通常の年以上に活用されており、親族以外にウシの管理が任されることも少なくなかったのである。 一方、調査項目2)「町から離れた地域のポコットの放牧形態と牧夫の経験知の把握」に関して、家畜や人を動かした事実や、ウシ群を移動させる根拠となる情報については、聞き取り調査で逐一記録することができた。また、調査項目3)「市場経済・開発援助の流入に対する町からはなれた地域のポコットの適応戦略の解明」については、ウシの購入と売却、誕生と死亡、贈与(移入・移出)、屠畜などの記録を聞き取りにより再構成することができている。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、2014年度の調査では、調査項目1)の調査に関しては大きな成果が得られている。2015年度には、調査項目2)、3)の調査に関して集中的に調査をおこなう見込みである。具体的な調査としては、以下のことを計画している。 町から離れた地域の遊牧ポコットのホームステッドを10以上とりあげ、世帯構成員の放牧への参与時間や家畜への働きかけを量的に計測する。また、GPS首輪を用いて家畜群の放牧ルートのデータをとり、距離やルートの重複率などについて、定住ポコットのものと比較する。そして、季節変動や地形、水場、植生の分布の性質について、牧夫の経験知を広く取材し裏付けをおこなう。さらに、ホームステッドの各世帯における、家畜の売却と食料の購入、家畜による食料生産量の変動や購入食料の通時的な増減の記録をとり、世帯の経済状況との関連を分析する。 以上の調査を踏まえて成果をまとめ、学会誌『アフリカ研究』や『アジア・アフリカ地域研究』などに投稿する。
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