本年度は、昨年実施した現地調査をもとに調査対象の社会経済的状況を中心として以下の事象を明らかにした。 これまで、1960年代後半から始まり1970年代から本格化した「緑の革命」による農業の集約化と1970年代から増加し始めた非農業労働従事機会により、1980年代からダリト世帯の社会経済的環境は整いつつあったと指摘される。しかし、調査地では1980年代は依然として多くのダリト世帯が年季契約の専従的な農業が強いられるアディメーガル労働に従事していたことがわかった。 1990年代にみられた調査地域における就業形態の変容の特徴としては、農業部門・非農業部門において日雇い労働従事機会が増大し、ダリト世帯の多くがアディメーガル労働から脱却したことが挙げられる。 2000年代以降は、一転して、急速な勢いで生計手段の多角化が進展した。農業部門では、ダリト世帯の自作農・小作農が増加傾向にあり、非農業部門では、臨時雇いの工場労働者世帯が多く出現している。 収入源の多様化および多角化に加え、NREGA(全国農村雇用保障法)やPDS(公的配給制度)などの公的福祉政策の拡充が村落社会におけるダリトの経済状況の改善に大きく寄与してきたことは一般に認識されている事象である。本調査が明らかにしたのはダリト全体の経済環境が改善する一方で、世帯間の格差が拡大している点を明らかにしたことである。特に農業日雇い農業労働以外に生計手段を掴み得ない世帯と生計の多角化を進める世帯間で消費行動の自由度に大きな差が生じている。加えて、他の地域に類を見ない速度でダリトを取り巻く社会経済的状況が転換するなかで、近年各調査村落で宗教・巡礼旅行および福音主義が流行している。新たな経済機会の到来とダリトのこれまでにない宗教実践の構築が同時に進行している現状を確認した。来年度は経済的状況と宗教実践との関連に焦点を当て分析を加えたい。
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