2012年までに、スリランカでは、ヒト症例から数種類のレプトスピラ遺伝子が検出されている。動物では、レプトスピラ遺伝子は牛の尿より検出された一報告のみである。このように動物のレプトスピラ保有状況に関する情報が不足しているため、人への感染源、環境汚染源となる動物ははっきりとわかっていない。そこで、申請者は、スリランカ中央県Kandy districtにて、人家周辺生息小動物のレプトスピラ保有状況に関する調査を行った。さらに、と畜場でサンプリングされた豚の腎臓からレプトピラ遺伝子の検出を試みた。その結果、2014年12月に捕獲されたSuncus murinus1頭、2015 年10月に捕獲されたS. murinus1頭とRattus rattus1頭から病原性レプトスピラの遺伝子が検出された。得られた遺伝子配列の解析の結果、これらはいずれもL. borgpeterseniiであることがわかった。また、lipL41の遺伝子配列比較から、本研究にて得られた3つのL. borgpeterseniiがスリランカのレプトスピラ症患者から得られた遺伝子種と近縁であることも示された。また、健康な豚腎臓からも病原性レプトスピラ遺伝子が検出された。スリランカではレプトスピラ症は現地の言葉でネズミ熱と呼ばれており、ラットが主要な媒介動物とされていたが、今回初めてジャコウネズミからも病原性レプトスピラ遺伝子が検出された。ジャコウネズミは食虫類と呼ばれるモグラの仲間で、本来生態はラットとは異なっていたが、なんらかの理由で生態が交差するようになり、ラットが保菌するレプトスピラに感染するようになった可能性がある。また、と畜場で解体された豚の腎臓からもレプトスピラ遺伝子が検出されたことから、不顕性に持続感染している個体が存在する可能性が示唆された。
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