新規脱パルミトイル化酵素の一系統のノックアウト(KO)マウスを樹立し解析したところ、KOマウスの体重は減少傾向にあった。また、このタンパクは組織特異的な発現パターンを示し、この酵素の基質候補と考えているHRas及びNRasも脳に優位に発現していた。さらにこのタンパクは全脳において年齢に依存せず一定量発現し、年齢依存的にHRasの発現量は増加したがNRasの発現量は減少した。また、このタンパクは生後14日目と成体の各種脳領域では異なる発現パターンを示した。これらの結果から、この酵素と基質は時空間的に制御されていることを明らかにした。次に、基質タンパクの発現量及びパルミトイル化レベルを検証したところ、HRasの発現量は変化していなかったが、パルミトイル化レベルは上昇した。この結果から、生後一ヶ月の全脳においてこのタンパクはHRasのパルミトイル化レベルを制御していることが示唆された。 パルミトイル化酵素DHHC2KOマウスの解析も行った。脳においてDHHC2の基質候補であるFynとCKAP4は持続的に一定量発現していたが、PSD-95は成体にかけて発現量が上昇しDHHC2の発現パターンとは逆相関した。DHHC2KOマウスにおいてこれらのタンパクをはじめとする基質タンパクの発現量及びパルミトイル化レベルを検証したが、顕著な差は観られなかった。DHHC2が抑制性神経やマイナーなポピュレーションでのみ発現している場合、たとえその細胞において基質のパルミトイル化レベルが変化していたとしても生化学的に検出することが困難であることが予想される。それゆえ、基質のCSノックインマウスで表現系が観られ、DHHC2KOマウスでフェノコピーが観られるかを検証することが正攻法である。無論、in vitroで観ている結果がartifactである可能性もあり、DHHC2の重要性は再考しなければならない。
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