研究実績の概要 |
本研究は第一原理計算的な相対論的電子状態から場の量子論に基づく電子スピンに関する力学的な局所物理量を計算し、その基礎的な性質を理解するための理論構築とプログラム開発を推進するものである。 前年度開発したプログラムコードをアルゴリズムの改善と並列化により高速化し、それを用いて多原子分子に対してスピントルク密度などの局所物理量計算を行った。その結果、分子軌道ごとの局所物理量の分布から、軌道エネルギーにはほとんど影響を与えない相対論的な相互作用が局所描像に対しては強い影響を与えることが明らかとなった。さらに、スピンの渦度に注目し、スピンホール効果が力学的な描像という新しい観点から理解されることを明らかにした。 分子内部における電子の電気双極子モーメントに起因するスピントルク密度に関して場の量子論に基づいたスピンダイナミクスの観点から理論的研究を行い、強い内部電場を持つYbF, ThO, BaFなどの分子に対してEDM有効電場やEDMの存在によって追加されるスピントルクの寄与を第一原理計算によって明らかにした。 また、光の遅延効果を含む量子電磁力学に基づく数値シミュレーションの実現に向けて、計算手法の定式化とプログラムコード開発に取り組んだ。遅延ポテンシャルまで考慮する場合には静電ハミルトニアンを用いる量子化学計算には現れなかった2つの積分項を計算する必要がある。これらの積分項は解析的に計算が困難であり、また被積分関数が激しく振動するため通常の数値積分法では計算の収束が困難となる問題がある。これらの積分項の数値積分を効率的に行うために、大浦と森によって提案された二重指数関数型数値積分公式を用いる手法を考案した。
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