研究実績の概要 |
本研究では、ニューロンの神経突起の形態的な性差の形成におけるニューロンを取り巻く「性環境」の果たす役割に着目して解析を進めた。平成27年度においては、前年度に引き続き、ニューロンが雌の投射様式を獲得するために周囲に「雌の環境」が必要である可能性を検討した。そのために周囲の脳細胞はそのままに、雌に性転換した状態にあたる、fruitless (fru)の機能を喪失した細胞クローンを雄の脳内にモザイク法によって作出する実験を行った。この雌に性転換された mcALa ニューロンの神経突起形態について詳細な観察を行ったところ、雄特異的な突起の形成は認められなかった。これは、周囲の細胞が雄のままであるならば、細胞クローンのみを雌化した場合でも、雄型の形態を維持しているという当初の予想に反する結果であった。同時に、この結果から、mcALa ニューロンの雄特異的な神経突起の形成には、mcALa ニューロン自身で Fruが発現することが必要とされることが示唆された。これらの作業と並行して、引き続き細胞間相互作用に関与する脳細胞の解明を行った。脳細胞の解明においては、モザイク法によりtransformer (tra)の機能を雌の少数の脳細胞で喪失させることにより、その細胞だけを雄に性転換させた。これまでの実験においては、mcALa, mAL ニューロンといった個々のニューロンの形態に着目していたが、本年度では、一部のニューロン集団を雄化した際にそれに呼応してmcALa 及びmAL ニューロンに雄特有の突起が形成されるかどうかということに重点をおいて解析を進めた。その結果、mcALa ニューロンが他の fruitless(fru) 発現ニューロンと同時に雄化された場合に、不完全な形態ではあるものの雄特異的な神経突起を形成することがあった。
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