今年度は、課題遂行時の脳波データの計測と分析、神経生理指標の計測や解析方法に関わる情報収集を行った。読みスキルの習得を支える神経メカニズムについて、情報処理を開始する直前の状態に着目し、脳波のパワー値および事象関連電位を指標として、(1) 刺激呈示前の状態と作業記憶の更新や注意の定位との関連 (2) 刺激呈示前の状態と聴覚処理の関連 を検討した。 (1) 事象関連電位のP3b成分とP3a成分はそれぞれ、作業記憶の更新、注意の定位を反映すると考えられている。P3b成分・P3a成分と刺激呈示前のパワー値との関連を調べたところ、P3b成分とシータ帯域・ガンマ帯域のパワー値、P3a成分とアルファ帯域のパワー値との関連が示唆された。ガンマ帯域の律動はトップダウンの処理を反映するP3b成分との関連が示唆された。(2) 250ms後に観察される事象関連電位は、ミスマッチ陰性電位成分(MMN)と呼ばれており、逸脱刺激への自動的な注意を反映すると考えられている。MMN成分の振幅と刺激呈示前のパワー値との関連を検討したところ、持続長MMN成分と低周波数帯域(0-16Hz)のパワー値との関連が示唆された。持続長MMN成分の振幅が高いほど、神経同期のパワー値は増大していた。一方で、周波数MMN成分とパワー値の間に関連は示唆されなかった。 これら結果から、課題遂行前の脳の状態を含めた評価によって、個人の知覚・認知プロフィールを詳細に評価できる可能性が考えられた。
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