研究実績の概要 |
植物細胞壁の主成分であるセルロースや澱粉に代表される天然多糖の多くは結晶性の物質として存在する。しかしながら多糖結晶においてはその構造を解析するのに適した試料を調製することが難しく、未だその構造が明らかにされていないものが数多く残されている。さらに多糖は親水性の官能基である水酸基を多く有しているために、そのうち大部分は水分子を結晶格子内に取り込んだ水和型結晶を形成することが知られている。従って本研究では水を含んだ状態を保ちながらクライオ電子顕微鏡等による測定を行い、水和多糖の構造や特性を解明することを目的としている。 前年度では一部の多糖結晶が想定以上に電子線損傷を受けやすいことが判明し、そのような多糖の解析には新たなアプローチが必要であること、当初の計画に沿った実験を行うためには比較的電子線損傷に強い多糖を選択する必要があることがわかった。そこで当該年度は、βキチンやα-1,3-グルカンについての電子顕微鏡観察を行うとともに、中性子小角散乱測定による構造変化の観測を試みた。 βキチンの断面形状観察では、乾燥状態の断面には一定方向に亀裂が入る様子が観察された。これは脱水に伴ってキチンのフィブリル形状が変化するためではないかと考えており、今後は切片を再湿潤させた後にクライオで観察し、再水和の前後で形状にどのような変化が起こるのかを評価する予定である。α-1,3-グルカンのクライオ電子顕微鏡観察では、水和構造の電子線回折図を取得することができたので現在解析を行っている。中性子小角散乱については、アルカリ処理や乾燥によってセルロースの凝集状態がどのように変化するのかを明らかにするために実験を行った。アルカリ濃度や乾燥方法によって凝集状態が異なることを示唆するデータが得られており、詳しい解析を進めている。
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