研究課題/領域番号 |
14J02940
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
鈴木 雄大 専修大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 行為 / 反因果説 / 反心理主義 / 選言説 |
研究実績の概要 |
第二年度目の本年度には、まずこれまでの研究成果をまとめた論文「理由の反心理主義に基づいて行為の反因果説を擁護する」を執筆し、それは後に『科学哲学』に掲載された。 本年度の研究テーマは、行為の理由に関する「選言説」と呼ばれる立場を検討することであった。選言説は、行為者の信念が正しく、典型的には「~だから」と行為者の心的態度の対象に訴えた説明と、行為者の信念が誤っており、典型的には「~と思ったから」と行為者の心的態度そのものに訴えたように見える説明のそれぞれにおいて、行為を説明する理由は異なった種類のものであると主張する。本研究は行為の理由は心的態度の対象であるとする「反心理主義」を擁護するが、反心理主義にとって、心的態度に訴えた説明がなされるように見える、行為者の信念が偽の場合をどのように理解するかが最大の問題となる。本研究は前年度の研究において、行為の理由に関する形而上学的な次元と行為の説明に関する言語学的次元とを区別することでこの問題に対処した。本年度における選言説の検討によって、この対処と選言説的な考え方とを結びつけることが可能であることが明らかになった。選言説は、理解の先行性は行為者の信念が偽の場合ではなく真の場合にあると考えることで、信念が偽の場合についての反心理主義的な理解を可能にする。 また、本年度のもう一つのテーマは、反心理主義の論拠として、通例のように理由の規範性に訴えるもの以外に、説明の視点に訴えるものの探究にあった。しかしこれに関する研究は、より深いところで実践的知識に関する議論と結びついていることが研究の途上で明らかになり、実践的知識についての新たな研究の必要性は科研費繰越の事由となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
行為の理由は行為者の心的態度であるとする標準的な見解に対して、それは行為者の心的態度ではなく、むしろその対象であるとする反心理主義を擁護する議論を一般的な形で展開した論文「理由の反心理主義に基づいて行為の反因果説を擁護する」を執筆できたことは、本研究にとっての大きな成果の一つであった。 また、そこでも一定の仕方で解決策が示された、行為者の信念が偽である場合をどう理解するかという問題に対して、選言説の立場から新しい理解を示すことができたことも、本研究にとっての大きな進捗となった。 しかし、行為の理由を心的態度の対象とする反心理主義そのものに支持を与える論拠として、一般的に提出される理由の規範性に訴えたもの以外に、説明の視点に訴えたものを提出するというもう一つの研究課題については、実践的知識に関する新しい研究が必要であることが明らかになり、その点では期待した成果は得られなかった。だが問題の所在が明らかとなり、また上記のように他の点では大きな成果が見られたことより、総合的には「順調な進展」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
二年度目には、行為の理由に関する選言説に主に研究の焦点が当てられたが、今後の研究では、行為に関する他の形での選言説にも注目する。それは行為にとって重要な要素、すなわち理由・意図・身体動作の何に着目するかによる。今後は、残りの要素に関する選言説、すなわち意図の選言説と身体動作の選言説の研究を進める。意図の選言説は、行為へと実現した意図と、行為へと実現しなかった意図とが同じ種類のものではないと主張し、身体動作の選言説は、行為に関わる身体動作と、行為とは無関係の身体動作とは異なった種類のものであると主張する。それぞれに反対する考え、すなわち、意図には一種類のものしかなく、身体動作にも一種類のものしかないという考えは、意図と身体動作の間の関係は因果的であるとする因果説にとっての暗黙の前提となっていると考えられるため、意図の選言説と身体動作の選言説のそれぞれの擁護は、そうした前提を切り崩すという意義をもつ。今後の研究の推進方策は、両選言説に関する議論状況をサーヴェイし、それぞれを根拠づけるより説得的な議論を提出することである。
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