研究課題/領域番号 |
14J02956
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
陳 美伝 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
キーワード | 局所応力場分布 / 変形誘起マルテンサイト変態 / εマルテンサイトのバリアント選択 |
研究実績の概要 |
本研究では変形誘起マルテンサイト(BCC)を形態・生成タイミングによって、応力・ひずみ誘起ラスマルテンサイト、応力・ひずみ誘起レンズマルテンサイト、計4種類に分け、系統的に調べ、準安定オーステナイト相を有する多結晶材における変形誘起マルテンサイト変態のバリアント選択則を解明することを目的とした。 2014年度は、大型放射線施設SPring-8にて、白色 X線マイクロビームX線回折技術(EXDM法)を用いた準安定オーステナイト合金多結晶材の局所応力場測定実験を行った。その結果、多結晶材では同じ結晶粒の内部でも、場所によって局所応力場が不均一であり、ほとんどの局所応力の引張主応力成分の方向は巨視的一軸引張応力の方向とは異なるたことが明らかとなった。今まであくまでも仮定でしか議論できなかった局所内部応力場を測定、可視化までして、多結晶材の内部応力の真実を表すことができた。 また、得られた局所応力場を用い、従来の理論/モデルにより優先的生成すべき変形誘起マルテンサイト相のバリアントを計算した。その結果、計算により得られたバリアントと実際生成したバリアントは違い、多結晶体におけるバリアント選択には新しいモデルを構築する必要があると分かった。 最後に、SUS304ステンレス鋼における応力誘起ラスマルテンサイト変態は、母相オーステナイト相から直接BCCマルテンサイトに変態するのではなく、HCPマルテンサイト相が経由していることを推定した。母相からHCPマルテンサイトのバリアント選択が先に起こり、その後HCPマルテンサイトから生成しうるすべてのBCCマルテンサイトが生成するという結論にたどりついた。変形誘起マルテンサイト変態のバリアント選択則の解明に重要な一歩を踏み出すことができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「データ収集」、「従来の理論/モデルによる検証」を行い、従来の理論/モデルでは説明できない場合、「新しいモデル構築」をする、というのが当初の研究計画であった。平成26年度では、「データ収集」のために実験(レンズマルテンサイトを生成するFe-33Ni及びラスマルテンサイトを生成するSUS304を用い、試料に変形を加えたまま局所内部応力場を測定する)を行う予定であった。 平成26年6月にFe-33Ni試料を弾性域まで変形させ、局所応力場を測定した後、試料を急冷し、応力誘起マルテンサイト変態を起こさせた。7月にSUS304試料を用い上記と同じように応力誘起マルテンサイト変態が起こる前の局所応力場を測定した。10月にSUS304試料を塑性域まで変形させ、局所応力場を測定し、その後ひずみ誘起マルテンサイト変態が起こるまで試料を変形させた。12月にFe-33Ni試料を塑性域まで変形させ、局所応力場を測定した後急冷を行った。計4回、Spring8の当該ビームラインで局所応力場測定の実験を行い、計画通りレンズやラス形態を呈する変形誘起マルテンサイトが生成する前の試料の局所応力場を測定できた。ここまでは当初の平成26年に行う予定の実験であった。 その後、変形誘起マルテンサイト変態が起こった場所の近傍にある内部応力場を用い、従来の理論/モデルによりバリアント選択則を解析した。その結果、計算により生成すべきバリアントと実際に生成したものと違い、従来の理論/モデルではバリアント選択を説明できないことがわかった。 さらに、上記の4種類の変形誘起マルテンサイト変態中の応力誘起ラスマルテンサイト変態が起こった時、母相オーステナイトから直接に応力誘起ラスマルテンサイトが生成するのではなく、HCP相マルテンサイト変態を経由している、という結論が得られ、そのバリアント解析についてのモデルを構築した。
|
今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」で説明したように、本研究における変形誘起マルテンサイト変態のバリアント選択は、従来の理論/モデルにより説明ができず、これからは「新しいモデル構築」をする必要がある。4種類の変形誘起マルテンサイトの中でHCPマルテンサイトを経由している応力・ひずみ誘起ラスマルテンサイト及びHCPマルテンサイトを経由していない応力・ひずみ誘起レンズマルテンサイトのバリアント選択のメカニズムを解明するのは今後の研究の進展方向である。 HCPマルテンサイトを経由して応力・ひずみ誘起ラスマルテンサイト変態に関しては、HCPマルテンサイト変態を考慮せず、最初の母相及び最後のBCC相のみを考慮すればいいという報告もあったが、我々の今までの研究結果によるとやはり変態途中で経由しているHCPマルテンサイトを考慮する必要がある結論に辿り着いた。そのため、これからは母相からHCPマルテンサイトのバリアント選択を考えてから、HCPからBCCのバリアント選択を考える予定である。また、応力・ひずみ誘起レンズマルテンサイト変態に関しては、変形中シュミット因子が最大となる、すなわち実際活動するすべり系を調べ、すべり面・すべり方向とバリアント選択との相関を考える予定である。最終的に4種類の変形誘起マルテンサイト変態のバリアント選択則のメカニズムを解明することを期待している。 最後に、予定ではHCPマルテンサイトを経由している変形誘起ラスマルテサイト変態について調べることになっているが、もし余裕があればHCPマルテサイトを経由しない変形誘起ラスマルテンサイトについても調べたいと考えている。そのため、新たな試料を探し、SPring-8のビームラインで内部応力場測定のため予約も行う予定である。試料に関しては、Fe-Mn-Ni合金を考えていて、SPring-8の年度後期のビームラインの申請書も現在作成している。
|