研究課題
獣医学領域、医学領域において、妊娠関連疾患の治療と予防法の確立は急務である。これまでの申請者の研究において、分娩後子宮において老化細胞が蓄積し、その周囲にマクロファージが集積し、老化細胞の除去に関与していることがわかっている。老化細胞は様々な液性因子を分泌し、周囲組織のガン化や炎症を引き起こすことから、分娩後子宮における老化細胞の生理的な除去が子宮の恒常性維持に重要であることが推測される。申請者の研究における目下の課題は、①分娩後子宮に蓄積する老化細胞における細胞老化誘導機序の解明、②老化細胞が分娩後子宮に異常に蓄積することと子宮・妊娠関連障害との関連の解明、の2点である。①について、申請者は細胞老化を誘導する上でp21やp16のさらに下流に存在するRbタンパクのコンディショナルノックアウトマウス(Rb1loxp/loxp-Pgrcre)を作出した。全身性Rbタンパクノックアウトマウスは胎生致死に陥るからである。Rb1loxp/loxp-Pgrcreマウスの表現形を観察した結果、♂♀ともに正常に発生するものの、♀マウスの妊孕性に著しい障害を呈することがわかった②について、申請者は前年度において、p53loxp/loxp-Pgrcreマウスの分娩後子宮に過剰な老化細胞が残存することを示した。マウスは分娩と同時に排卵し、交配が行われた場合は正常に妊娠、出産に至ることが知られていることから、申請者は、この早産マウスを用いて分娩直後に交配を掛け、その後の妊娠の転帰を調べるという実験を行った。その結果、このマウスにおいてはコントロールマウスと比べ、分娩まで至るマウスの割合が低下するという結果を得た。
1: 当初の計画以上に進展している
申請者の研究は当初の計画通りに進行していると考えられる。理由は以下の通りである。第一に申請者は細胞老化に関わる遺伝子に対するノックアウト動物を利用し、細胞老化の誘導機序を理解する上で示唆に富むデータを得ることが出来た。特に新たに作出したコンディショナルノックアウトマウスにおいて著しい妊娠障害が生じたことは、妊娠子宮における細胞老化の役割の解明に向けて大きな一助となる可能性がある。第二に、既知の早産モデル動物を使用した分娩後の子宮における異常な細胞老化の亢進という、新規の病的状態において、著しい妊娠率の低下という、細胞老化と子宮機能異常を関連付ける大きなデータを得ることが出来た。これは老化細胞が組織の機能障害を誘導し、従って組織の恒常性維持機構の一環として老化細胞の除去機構が存在するという申請者の仮説を裏付ける重要なデータである。
まず、妊娠子宮における細胞老化機序の解明においては、申請者はすでにp16、p21はこの機構に関与しないという結果を得ている。それに対して、今年度新たに作出したRbコンディショナルノックアウトマウスにおいては妊娠において必要な老化細胞の役割が阻害され、結果として妊娠に異常を来たしている可能性が考えられる。すなわち、このマウスは妊娠子宮に存在する老化細胞の役割を解析する有用なモデルとなる可能性があり、今後はこのマウスにおける妊娠障害の詳細を明らかにすることで、妊娠子宮における細胞老化の役割を明らかにする予定である。さらに、申請者は産褥子宮に老化細胞が過剰に蓄積するp53loxp/loxp-Pgrcreマウスの分娩直後の妊娠に障害が発生することを明らかにした。これは老化細胞が子宮性不妊の原因となることを明らかにする画期的なモデルである。従って、今後はこの早産モデルマウスを用いて分娩直後の妊娠に生じる妊娠障害を精査すると共に、このモデルを用いることによって、老化細胞の異常な蓄積と、妊娠・子宮関連疾患との関連を解明していく予定である。
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Hormone Frontier In Gynecology.
巻: Vol.22 No.3 ページ: 11-17