研究課題/領域番号 |
14J02971
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
李 善太 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
キーワード | 下水再利用 / ウイルス / 凝集処理 / UV消毒 / 二次処理水 / 消費エネルギー / 下水再生処理 / PCR |
研究実績の概要 |
下水再利用が世界的に注目されているが、その由来が下水であることから病原微生物の問題、特にウイルスの存在が懸念される。そのため、再生水利用においてウイルスによる人の健康へのリスクを適切に低減できる下水再生処理プロセスを構築する必要がある。本研究は、衛生学的に安全な下水再生処理プロセスを構築するため、限外ろ過(UF)膜処理を用いて、高いウイルス除去率を達成できる効率的な下水再生処理プロセスを研究したものである。下水処理場の二次処理水でのウイルス凝集効果について大腸菌ファージMS2を用いて培養法により評価した。この結果、下水処理場によって凝集効果は大きく異なり、溶存有機物の性状(DOC濃度、E260など)とpH条件が寄与していることを明らかにした。また、下水処理場の二次処理水を対象として、凝集沈殿+UFとUF+紫外線(UV)処理プロセスを設置し、凝集剤量、pH条件、UV照射量を変化させた場合のウイルス除去率をMS2の培養法により評価した。この結果、凝集沈殿+砂ろ過+UVといった従来技術に比べて、低pH条件下での凝集沈殿+UF、UF+UV処理プロセスは、同程度のウイルスの除去率を得るために必要な消費エネルギーの削減効果が大きく、特に後者は消費エネルギーが最も小さく、ウイルス除去の信頼性も高いことを明らかにした。下水処理場の最初沈殿池越流水を対象として、凝集+UF処理プロセスを設置して、ウイルスの除去率をMS2の培養法により評価した。この結果、安定的な連続運転ができる凝集条件とろ過速度の条件を見出すとともに、その際のウイルス除去率を明らかにした。下水再生処理プロセスを用いた生産水でのヒト病原ウイルスを定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)法により測定した。この結果、再生水中において常に検出下限未満となることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、分子生物学的手法であるリアルタイムPCR法を立ち上げ、実際の腸管系ウイルスの測定及び指標ウイルスの遺伝子単位の分析が可能となった。この分析方法を用いて、下水処理場の二次処理水を用いたウイルスの凝集処理過程における除去メカニズムの解明に関する目的に対しては、ウイルスの存在形態により凝集処理過程での挙動が異なることを明らかにしている。また、下水再生処理プロセスを構築する目的に対しては、指標ウイルスの除去のみならず人の腸管系ウイルスの除去率の評価も行い、これらのウイルスにおいて除去率に相違が生じることも明らかにしている。これらのことから、研究は順調に進呈していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでの研究で構築した下水再生処理プロセスの実用化に向けて、より規模を拡大した場合や膜の破損などトラブル発生時におけるモニタリング方法の検討を行う。また、これらの検討を行いながら並行して、室内実験によりウイルスの凝集処理過程における除去メカニズムの解明に向けた研究を進める予定である。ウイルスの存在形態により凝集処理過程での挙動が異なることを明らかにしているが、ウイルス存在形態をより明確に把握することで凝集処理過程のみならずUVなどの消毒処理や膜処理などの水処理におけるウイルスの除去メカニズムの解明にもつながることが期待される。そのため、水中においてウイルスはどのような形態で存在しているのかを分子生物学的手法と酵素処理を組み合わせた分析を行い、詳細に検討する。
|